Scribble at 2023-02-17 09:30:28 Last modified: 2023-02-17 09:37:58

これは小ネタなので、英語の勉強について書いた論説には加えないが、単純化され過ぎて本来の趣旨が間違って理解されているアドバイスがある。それは、「英文を後ろから訳すな(前から訳せ)」というアドバイスだ。

これは、英文を英語の文章つまりは誰かが何かを言ったり書いていることとして、あなたが理解するときには大切なポイントだ。なぜなら、英語では重要なフレーズを先頭に置く習慣があるからで、"Mike is our manager." と言っているときに重要なのは、マイクという特定の人物である。これが "Our manager is Mike." だと、マイクというマネージメントを担当する人員がいるというニュアンスに変わる。これは、そもそも両方の表現がどういう状況で言われたり書かれるかを想像すればいい。"Who is your manager?" と言われたら、カジュアルな会話では "Mike (is)" とだけ言うだろう。これを、そもそも "Mike is our manager." などと言う人は殆どいない。"... is our manager" は、そもそも質問している相手が知りたいことなので、いちいち言う必要がないからだ(復唱する習慣や口癖がある人は別だが)。これに対して、"Our manager is Mike." と答えなくてはいけない状況とは、かなり特殊な質問であって、たとえば "Does your company have a management staff?" とか "Do your division have a manager?" などと聞かれた場合に限られるだろう。このような質問に "Our manager is Mike." と答えるときは、「うちにはマイクという管理職がいます」というニュアンスになる。そして、この場合は相手にとって "is Mike" という具体的な人名はどうでもいいことだが、"We have some managers." と答えるよりは直接的だし、大きな会社だと他の部署のことは知らないから自分の部署のことだけ答える人もいるだろう。

これはいい。でも、日本語の文章として翻訳するときにまで同じアドバイスを無闇に濫用する必要はない。翻訳において大切なことは、どう考えても日本語の文章として筋が通っており読みやすいかどうかなのであり、アメリカ人っぽい表現や思考の流れを形式だけ真似して代弁することなどではない。しょせん、日本語の翻訳でしか相手の言うことを理解できない人に対して提供するのが翻訳なのであるから、読み手が英米人の思考の流れを理解するなどということは二の次だし、実は相手の言う意味を理解することにとって、それは重要でもなかったりするのだ。したがって、日本語として自然な文章に訳出するときの常識的で標準的な構文であれば、英文の後から訳していようと全く構わない。寧ろ、無理に「前から」訳して奇妙で不自然な日本語の文章になってしまう方が不適切というものだ。元が日本語ではないから不自然でもいいなどと言うのは、簡単に言えば翻訳の才能がない人間の開き直りにすぎない。そういう人は、英語で読むのが(本当に)得意であるとして、才能がない翻訳になど手を染めずに、黙って英語で読んだことを活かして、日本語で書いた自分の業績を積み上げるべきである。

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