Scribble at 2024-02-19 08:11:15 Last modified: 2024-02-19 11:21:43

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昨日、青木書店の話を書いたときに創業家の出身で物書きをしている人物を紹介した。この青木冨貴子氏の経歴を調べると、いっときは『Newsweek 日本版』のニューヨーク支局長をやっていたという(前にも書いたが、Newsweek の翻訳版という意味の「日本語版」ではない。翻訳記事も多いが、原則として独自編集だから「日本版」である。よって、当サイトで「ウィキペディア」と "Wikipedia" を言い換えている方針に従えば「ニューズウィーク日本版」と書くべきかもしれないが、新聞で "YouTube" を「ユーチューブ」と表記してるような田舎者臭い印象があるので、敢えて分けていない)。そして、更には『諸君!』にもアメリカの話を連載していたらしいというから、もともとイデオロギーとか関係ない、根っからの「物書き」なんだろう。

で、そういうことを昨日の夜は 0.5 秒くらい考えていたのだが(つまり、それくらいの些事ということ)、そこから更に考えると、もう少し大きな話題になる。これは、もしかすると数秒では終わらないような思考を要するのかもしれない。つまり、「海外メディアの日本(語)版って、それ意味(もしくは商品価値)あるの?」という話だ。

単純に考えると、僕らのように Newsweek ていどの英語なら何とか読めるという人が Newsweek の伝えるところを知りたいと思うなら、もちろん Newsweek を読むわけだよ。いちいち日本語に訳してもらわなくてもいい。いまなら雑誌を買わなくてもオンラインでいくつかの記事は読めるし、なんならデジタル版を購読(この場合は本当にお金を払うから「購読」と言って良い)すればよい。そして、辞書をいっぱい引きながらでしか読めないし、文法の理解もあやしくて、しかも書かれている言葉を単語としてだけでなく固有名詞などとしても理解できない(たとえば "Matrix" と書かれていても、これがどういう映画なのか知らない人にとっては、「行列」とか「鋳型」としか理解できない)ような人には、注釈付きの「日本語版(翻訳版)」が必要だ。でも、こういうのは学習用となるため、たとえば CNN の短いクリップを注釈付きで解説しているムック本や英語雑誌のようなものにしなくては売れないだろう。そしていちばん問題があるのは、残りの人々、つまり Newsweek というアメリカの媒体が伝えているという観点に興味がないという大多数の日本人が、たとえ翻訳されていようと、そういう雑誌を買うかということだ。これは、もちろんない。何かのきっかけで、普段は読まない人がこぞって日本版なり日本語版を買い求めるような可能性はあるかもしれないが、それは特殊な事情があるときだけだ。とても事業を継続するに足りるような安定した売上とは言えないだろう。

つまり、こういう想像が正しいなら、『Newsweek 日本版』というのは、雑誌であろうとオンライン・メディアであろうと、そういう不安定な客層にしか受け入れられない。そして、僕が経営陣なら、これはどう考えても深刻なことだと思う。まして翻訳・編集権があって内容に大きな裁量があるにも関わらず、こんな不安定な客層しかターゲットにしていない時点で、マーケティングのセンスはほとんど落第、新卒レベルと言って良い。

いちばんまずいのは、ヘッドラインをかき集めているアグリゲータに記事を提供していることだ。海外のメディアでも記事の融通はしているが、日本の場合はとにかくヘッドラインだけ情報商材詐欺の広告と同じように並べているだけで、理解力も判断力もない連中が LINE の女子高生と同じような気軽さと迂闊さで他人の仕事を品定めするに任せていることになる。これでは、愚劣な連中と同じ土俵で闘うことになるので、あたりまえのことだが大抵のメディアは釣りタイトル(clickbait)に手を出すはめになって、もともと利用していた人々の顰蹙を買って良質な客を減らす結果になる。くれぐれもオンライン・メディアの経営に携わる人々には忠告しておきたいが、釣りタイトルでビジターを釣り上げても、キャッチ・アンド・リリースされるのはメディアの側なのだという現実を直視しないといけない。

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