Scribble at 2026-04-18 18:46:45 Last modified: 2026-04-22 08:16:07

添付画像

エルマー・ホイラー『ステーキを売るなシズルを売れ - ホイラーの公式 -』(駒井進/訳、パンローリング、2012)

こんな古い本(初版は1930年代だったはず)が翻訳されていたとは知らなかった。そして、「ステーキを売るためには『匂い』や『音』を売るのが重要というわけだ」という、典型的な誤読・誤解が出版社による解説として堂々と掲載されていることに、改めて嘆息せざるをえない心境だ。カスタマー・レビューの中にも、「浅学菲才の徒はまたしても『シズル感の具備』を『五感に訴えること』であると誤読していくことだろう。それではまたしても creative を『いじっておもしろがる』次元へと貶め、販促への有効打を求める事業者(=広告主)たちの不興を買うだけである」と憂いている方もいるけれど、大方のレビューは誤解した読み方をしている。

これは、日本に限ったことではないのだが、いかに営業とか広告の業界で働く人々が、簡単に言えば勉強していないかという事実の反映である。その理由も簡単で、営業とは口八丁やホストのような口説き、あるいは輩のような脅迫のテクニックだと錯覚している人が非常に多いからで、たぶん電通や博報堂、あるいはリクルートや光通信などに入ってくる新卒の 99% はそういう誤解をしたまま、入社してから何の勉強もしないままでいるのだろう。そして、上に紹介したレビュアーが広告業界を憂いているように、大手広告代理店においては二重の過ちによって取り返しのつかない無能が育っていく。つまり、第一にクライアントのブランド力だけで黙っていても売れる商品が自分たちの力によるものだと誤解すること、そして第二に、自分たち大手広告代理店というブランド力を過信して広告や営業の勉強を怠ることだ。

僕はもちろん営業や広告部署の人間ではないし、その経歴においても殆ど営業の経験はないが、システム開発やデザインに携わりながらも財務会計や人事や法務、あるいは営業やマーケティングの勉強もしており、中小企業診断士のレベルとまでは言わないまでも、ビジネスにかかわる大半の分野で学卒ていどの人々を遥かに超えるレベルの知識はあると自負している。そのうえで言わせてもらうと、エルマー・ホィーラーが語っていることは、少しでも営業やマーケティングを真面目に勉強した人であれば気づくように、実質的にはジョーダン・ベルフォートと同じこと("Branding is not about product, branding is about customers.")を言っているだけなのである。そして、こうした色々な実例から要点をつかむためにも、きちんと勉強することが役に立つのだ。営業や広告を、属人的な口八丁や思い付きのデザイン・センスで何とでもなると思っている連中、つまり名刺で仕事をしていたような人々は、リクルートや博報堂を退職したとたんに全く仕事がなくなるのだ。

[追記:2026-04-19] 余談だが、もともと「シズル(sizzle)」というのは英語で肉をジュウジュウと焼く様子を表す言葉であって、日本のデザイナーなどが葉っぱや果物の表面についた水滴などの表面の質感を表すような意味は全くない。だが、そういう物欲を刺激するような表現という意味合いにまで濫用し始めたのは、日本のデザイナーではなく、このエルマー・ホィーラーであろうと言われている。どこの国でも、いつの時代でも、マーケターや宣伝屋というのは言葉を巧みに(勝手にとも言えるが)扱う。

  1. もっと新しいノート <<
  2. >> もっと古いノート

冒頭に戻る