2022年05月26日に初出の投稿

Last modified: 2022-05-26

These constraints push designers to “sculpt rather than draw” — that is, to optimize a user interface by eliminating elements instead of adding them. When designers embrace the constraints created by lower-tech user interfaces, they can arrive at solutions that are simpler than they might have originally imagined possible.

The forgotten benefits of “low tech” user interfaces

いわゆる物理ボタンとかつまみやコックといった、low-tech なユーザ・インターフェイスにも利点があるという、誠に説得力のある話だ。英語の文章としても簡潔でよく書けている。読み上げボタンがあるので、合成音声だが聞き流しても要点がしっかり分かる。そして、筆者は医療機器の製造に携わった経験から、ユーザ・インターフェイスのデザイン、なかんずくプロダクト・デザインというものが、専門学校や美大を出て適当に「クリエーティブ」などと言っているガキの遊びとは次元が違うという事実をよくわかっている。改めて強調するが、稚拙で失敗したデザインは、人殺しの道具になりえるのだ(そして、UI として優れたデザインの武器もありうる)。

low-tech な UI の利点は幾つか紹介されていて、一つ目は誰でも想像できるように、触った感触というフィードバックがあるとか、あるいは形状や使い方そのものに〈意味〉があるというシンプルさが道具としての信頼性に寄与するという点だ。スマートフォンを自分のポケットに入れたままで、何かを遠隔操作するアプリケーションを使えるかどうか、試すどころか想像してみれば誰でもタッチ・スクリーンの欠点が分かるだろう。high-tech な UI は、どう考えても目が見える人間だけを考えてデザインされており、しかも実際に UI 要素を目で見ている状況でないと操作できないという、実は非常に限定された条件でしか使えないのだ。

二つ目は、low-tech な UI で開発する方がコストは安いという話である。そして、しっかり作られている製品であれば、「ソニータイマー」(現在は「Apple タイマー」と言われたりする場合もある)は確かに都市伝説であるにせよ、液晶画面なんかよりも確実に製品としての寿命は長く使える筈だ。僕は元喫煙者なので、バーナーを起こす電子ライターなんてどれほど高額な商品でも半年と経たずに故障してしまうという事実に悩まされて、Zippo のライターしか使わなくなった。僕が手元に残している Zippo のライターなんて、おそらく僕が死んだ後でも使えるに違いない。そして医療機器についてはなおさら、コストの問題は大きい。場合によっては、使っている患者が自分で補修できるものすらあろう。

そして三つ目が、"ease of software develoment" と書かれているが、要するに制御機構の開発やメンテナンスにかかる手間やコストが low-tech の方が少ないという話である。アプリケーションなどで制御するには、開発にいろいろなコストがかかり、その製品を制御するという目的とは関係のないことにもライセンスを取得するコストや手間がかかる場合もある。そして、そのソフトウェアを動かす OS もメンテナンスする必要があるし、オンラインでアップデートできる利点はあるとしても、逆にネットワークへ接続することでウィルスに感染する恐れもある。そして重大なことだが、これは最後の利点ともかかわるが、複雑すぎてバグが生じやすいという欠点もある。

四つ目は、一つ目と二つ目にも関連することだが、機械製品としての信頼性という点である。ともかく、何でもかんでも液晶画面に表示することしか考えていない昨今の high-tech 機器は、実は機器の物理的な信頼性は大して高くない。とにかく故障しやすいし、故障したときに専門の技術者でなければ全く手が付けられない。もちろん low-tech の機器でも利用者が基盤を自分で半田付けなんてできないわけだが、多少の物理的な破損は自分で修理できたりする。そして、多少は傷があったりしても長く使い続けられるし、落としたくらいで即座に使えなくなるということはない。でも、液晶画面は落とすと相当なダメージがある。しばしば、落としたのか何かにぶつけたのか、液晶画面が砕けて真っ白になった iPhone を使ってたりする人がいる。破損したときの保険(月額で500円弱)にすら入っていないのかもしれないが、ふつうそんな状況で使えている方がおかしい。

そして最後に、上記でも引用した "constraining"、つまり UI のデザインを最初から抑制するという、一見すると利点には思えないことが挙げられている。しかし、これはプロダクト・デザインというものが商業デザインとして製造物責任の法律にもかかわる以上、僕に言わせれば当たり前のことだ。

プロのデザインについて言えば、デザイナーに裁量とかデザインの「自由」なんて存在しないし、あってはいけない。デザイナーに、消費者を巻き込んだ「自己表現」だの「実験」をさせてはいけない。そして、そういう規制のもとで結果を出すことが、デザイナー個人なんてどうでもよくて、「デザイン」に対する信頼につながるのだ。プロダクト・デザインの目的は利用者の利便性が第一であって、デザイナーの欲求とか理想とか、そんなもんは(敢えてプロのデザイナーの一人として言うが)カスみたいなものだ。好きに描くのはいいが、描いたアイデアは Pixiv とかへ投稿してエロ漫画と並べておけというレベルのものである。以前は紙のデザイナーに「ウェブのデザインを舐めるな」と書いていたが、ウェブのデザイナーやアプリケーションのデザイナーには「プロダクト・デザインを舐めるのもいい加減にしろ」という話を書いておくべきだろう。

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