Scribble at 2022-07-15 22:59:36 Last modified: unmodified

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今日は、大阪でも新型コロナ・ウイルス感染症の陽性者が1万人前後となってきているのだが、とりあえず社内ルールゆえに出社してきた。久しぶりに昼休みはフェスティバル・プラザでインデアンカレーに入れたのは良かったし、同じくフェスティバル・プラザの文教堂には Uniball Signo 307 の単品や替え芯がいくつかあったので、0.7mm の替え芯だけ5本ほど買い占めてきた。それから、帰宅するときは本町まで歩いて、途中に立ち寄った淀屋橋 Odona の文教堂でも物色したけれど、そこには Signo 307 のボディだけしかなかった。でも、文教堂の文具コーナーは Signo 307 を単品だけでも置いてくれているのが救いだ。

さて、その淀屋橋の文教堂は地域柄もあってビジネス書がたくさん置いてあるため、新刊を暫く眺めていた。昨年の後半にあれだけ読んだにも関わらず、それでも興味深い本がたくさんあるのは、もちろん経営とかビジネスとか仕事というものが、それだけ幅広い知識や経験を必要としていて、奥深いテーマであることの証左であろう。ガラクタみたいな本が大半を占めている分野でもあるが、そのこと自体は僕ら哲学者といえども謹んで弁えるべきことだと思う。言葉の綾として「経営の哲学」という表現は頻繁に見聞きするが、まともに哲学のプロパーが経営の哲学的考察をした業績がどれほどあろうかと思うに、単なる思弁や歴史的な詮索どころか、そういう点でも実績のない無能の集団が「哲学」や「思想」を語ったり大學で講じたり、Twitter で思想も顔もクッサい連中がせっせとプロモーションに励んでいるというのは、いったい如何なる文化的な醜態と言うべきものであろうか。

そうしたビジネス書の中には、「サブスク」というアイデアや商品設計を、何か停滞している販売とか商品開発の新しいアイデアだとばかりに浮かれて気軽に扱う人々も多いらしい。よって、逆に水を差すような著作も表れている。いわく、サブスクとして打ち立てられリリースされた商品開発プランの 91% は失敗するという。もちろん、中身は見なくてもだいたい理由はわかる。そもそも、大半のビジネスは凡人がやってる時点で 80% 以上は何をやろうとやるまいと成功しない。それ以外に、単なる人間関係とか運とか、経営が杜撰でも短期的にはうまくいっているように数字として表れてしまう業績というものがあり、サブスクの本来の要点である、長期的に安定した利益という目標へ到達できるモデルなんて僅かであるに決まっている。それに加えて、そもそも商材がどうなのかという致命的なポイントも加えたら、逆に言えば 9% が成功しているという結論も、僕に言わせたらかなり怪しい。

既存の販売形態を個別に完結する契約からサブスクへと切り替える売り手側の事情としては、古い、売り切ったソフトや機器のサポートを続けたくないというものがあろう。「サポート」とか、「アップデート」といった、早い話が手離れの悪い商品を扱っている売り手としては、できるだけ顧客に新しい商品へ買いなおしてもらう必要がある。Windows XP という OS、それから Windows XP が動くコンピュータを、10年も20年も使われたのでは困るというわけだ。しかも、その間にも OS のセキュリティ・アップデートをしなくてはいけないという社会的な責任まで問われるのだから、売り手としてはたまったものではない。

また、そういうサポートを続ける場合のコストは、単に手離れが悪いというだけではなく、売り手側の企業にとってマイナスの影響も多い。つまり、古い規格や仕様を敢えて学ぶ(とりわけ有能な)若者はいないので、そういう長期的に古いソフトウェアのセキュリティ・パッチを開発したり、古い機器の部品をメンテナンスするような部署は、敢えて言えば〈技術における老人ホーム〉になるのだ。しかも、そこで新しい技術と組み合わせたり、古い技術の中からだけですら、何か画期的なメンテナンス手法とかセキュリティ対策やパッチでも生み出された日には、その古いソフトウェアや機器をもっと長く使えることになってしまう。メーカーやソフトウェアのベンダーにとっては、財務的には自殺行為に等しいことを敢えて自主的にやっていることとなる。過去の商品やサービスを長くサポートしても、サポート費用が出たとしてすら大して売上には繋がらない。寧ろ会社全体としての売上が伸びない原因を自分たちで維持しているのと同じだ。

対してサブスクなら、客は古いソフトをアップ・グレードしやすい。せっかく料金を払わざるをえない形でも払っているのだから、アップ・グレードしなくては損だというわけである。さらにブラウザで動くアプリなら、アップ・グレードは一定の周知期間がいるとしても、アップデートについては事実上で強制できる。すると、支配的なソフトウェアや機器であれば安定した売上になる。買い切りだと、売り手の事情だけで新しいヴァージョンの商品を出しても、いま使っている機器やソフトウェアが動いてる限り、買い替えてくれるとは限らない。これは、従来からでもリース契約で使っているソフトウェアや複合機などに言えたことだ。

でも、買う側とすれば、ちょっとでも考えてみればわかると思うが、買い切ったソフトウェアや機器を長く使おうと思えば使えるかもしれなかったものを、サブスクに切り替えると割高になるという感覚がどうしてもぬぐえない。しかも、ソフトウェアや機器を使っている限りは永久に払い続ける必要がある。加えて、売り手の企業がサービスをやめたり倒産すれば、とりわけオンラインで動いているようなサービスだと、そのまま使い続けるというわけにもいかない。これは、電子書籍の購入はサブスクではないとしても、Amazon Kindle で購入した電子書籍を読み続けられるかどうかが、Amazon という企業と運命を共にしているという事実と同じリスクだと言える。

すると、どういう利便性があり、そしてどのていどの値段で設定されていれば契約するだけのメリットがあると言えるのか。これに厳密かつ正確に答えようとすれば、保険など金融商品の設計を参考にして評価の基準を決める必要があって、実はたいへん難しいと思う。サブスクで契約している機器やサービスやソフトウェアは「償却」という考え方が通用しないので資産計上できない。そうすると、一定の期間において一定の価値があれば投資や購買というコストに見合うと評価できるものを、サブスクで利用しているサービスや機器を使った作業とか事業内容に、どの程度の期間でどれだけの価値が生まれるかを見立てるのは、かなり難しいからだ。パソコンは3年が法定の償却期間だから、3年で15万円のパソコンを貸与しただけの仕事をしたのかという、かなり明快な基準で評価できる。サブスクでもパソコンのように故障率とかスペックの不足とか、一定の予測が成り立つ要素で計算できるならいいが、ソフトウェアについての将来の価値を見積もるのは難しい。ほぼ、限定的な用途のソフトウェア(経理用の管理ソフトとかオフィスとか)についてしか正確に価値なんて見積もれないだろう。

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