Scribble at 2021-10-29 09:03:08 Last modified: 2021-10-31 11:19:26

僕も、かなり昔は『今日から俺は!!』のような作品を知っていながら(高校を卒業した後は漫画雑誌を殆ど買わなくなったので、実際には殆ど読んでない)、特に何も思わなかった。ただ、日本ってヤクザとか不良少年を美化したり、少なくとも擁護するような漫画やアニメが多いという印象はある。ヤクザや不良と見做されていなくても、実質的にそういう人々と似たような荒くれ者だとか非行少年、いまで言えば「ちょい悪オヤジ」だとか「半グレ」を主人公なり主要な登場人物にしている漫画やアニメなら、もっと多くの作品があろう(たとえば『じゃりン子チエ』などもそうだ)。

もちろん、幼女が主人公の作品とかエロ・アニメなどと同じく、こういう作品が殆どテレビ局や出版社の規制など存在しないかのように無造作と言ってもいいくらい氾濫しているのは日本だけだ(エロ漫画やエロ・アニメについては「猥褻」の概念にもとづく刑事法の一般予防効果があるけれど、特に漫画やアニメを規制するためだけに制定されているわけではない)。これで世情なり民度が大して乱れたり劣悪に至らず、政府なり社会への不満を行動で示すような騒乱も少ないのだから、為政者にとっては〈鼻くそをほじっていても政治ができる〉国と言って良い。

これに比べて、海外では当然ながら漫画やアニメにも厳しいコードというものがある。また、自意識だけで活動している PTA や左翼団体のような日本の腑抜けとは違って、海外で民間団体なり市民がコードなりもっと厳しい規制を求めて訴える場合は、それなりに伝統的な宗教組織なり NPO としての理屈や動機づけもあって、圧力団体としても実効性のある力をもつ。

こういう規制について、とにかく脊髄反射のように「表現の自由」だの、あるいは規制するとクリエーティブがどうのとオウムのように繰り返す連中がいる。アプリケーション開発でプライバシーを平気で盗む起業家と称する詐欺師どもについては、僕が当サイトで何度か非難してきたのはご存知だろう。これと同じく、アニメや漫画でも、内容を規制すると技術やコンテンツとしての表現力や想像力が奪われるなどと思い込んでいる人々がたくさんいる。好きなものを好きなように描いて、なにがいけないのかというわけだ。でも、彼らがそういう安っぽいプライドをもつために貢献している宮崎駿氏や富野由悠季氏は、その経歴において一度でもエロ・アニメやヤクザ作品を制作しただろうか。そんな経験がなくても多くの国で認められる作品は作られているし、彼らが自分で手がけなくても過去に成人漫画や幼女の陵辱アニメを必死で眺めて影響を受けたからこそ『魔女の宅急便』や『ガンダム』を描けたなどという馬鹿げた理屈は、論証としても実証としても成立しないだろう。つまり、そういうコンテンツは確実に規制された中でやるか、アマチュアが幕張メッセで交換するようなものとしてのみ流通すればいいのであって、スタンダードな文化の中心にいるプロなど何の関係もないものなのだ。それに、表現だのクリエーティブだのと言うが、それを謳歌しているこの国は青少年の自殺率が先進国の中でも突出して多いことを考え合わせると、他のサブカル、たとえばラノベやゲームも含めた色々な媒体なりコンテンツとの関連性は分からないにしても、何らかの影響を青少年の心理に及ぼしていると考えてもいいだろう。

そら、異世界に転生して「リセット」したり「強くてニューゲーム」したり記憶を保持したまま幼女や中学生やスライムになれるなんて思い込みや錯覚が一つの〈ライフスタイル〉であるかのようにカジュアルに受け取られたり、あるいは逆にそういう自己催眠をかけざるをえないくらい辛い現実があれば、自殺する若者も増えるだろうに。

確かに、漫画やアニメで描かれるヤクザや荒くれ者や非行少年の多くは、「クズはクズ」であると自虐的に描かれている場合も多い。しかし、そういう自己認識の大半は、結局のところ作者自身の(あるいは読み手が抱いていると想定している)〈それでも〉という、抑制への鬱憤みたいなもので押し返されることも多いのだ。いや、それどころか「クズはクズ」であると自分で思っていること自体を、或る種の達観として描く作品もあるし、そこまでいかなくても何らかのセンチメンタリズムとして美化したり擁護する作品もある。「いわんや悪人をや」というわけだ。考えてもみれば、漫画のようなエンタメも含めて日本の芸能なり風俗そのものが部落差別や朝鮮人差別や LGBTQ 差別や女性差別や地域差別、それから劣悪な風俗や風習を隠蔽する巨大な「装置」だとも言いうる。

  1. もっと新しいノート <<
  2. >> もっと古いノート

冒頭に戻る


※ 以下の SNS 共有ボタンは JavaScript を使っておらず、ボタンを押すまでは SNS サイトと全く通信しません。

Twitter Facebook