Scribble at 2021-10-10 17:52:18 Last modified: 2021-10-11 00:10:19

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加登豊、山本浩二『原価計算の知識』(日本経済新聞出版、1996、URLは第2版)

上記のリンクは第2版のものだが、僕が読んだのは初版である。本書は原価計算の基本知識と、コスト・マネジメントの概観を描いている。原価計算だけでも分厚い入門書があるくらい、簿記・会計の分野で特に重要な項目を扱う分野だ。ただ、原価計算の公的な資料からして同じような傾向があること、そして1999年の出版であることから仕方がないとは言え、やはり本書も製造業の管理会計という観点に偏っている。また、原価計算の意義や重要性を強調するためなのか、いたずらに経営分析との接点をあれこれと盛り込みすぎていて、総覧的なだけで薄っぺらい解説に終わっている感が強い。とは言え、原価計算の初歩的な本としては十分な内容だと思う。

そして、次の一冊は逆に全くお勧めしない。残念だが企業人が読む価値は殆どないし、経営学を志す学生さんも読まないようがいいと思う。

石井淳蔵『ビジネス・インサイト ― 創造の知とは何か』(岩波書店、2009、https://www.amazon.co.jp/dp/4004311837/)

アマゾンで星5を与えているレビュアーは、どうしてこの本が増刷もされずに10年以上も品切れのままになっているのか、かつて自分が何を評価したのか、少しは考えてみた方がいいだろう。本書は通読していなかったので、少しだけ期待していた。しかし、冒頭の50ページほどを読んだ時点で失望を感じながら、ざっと最後まで目を通した結果も失望に終わった。

簡単に言うと、耳学問の科学哲学を引き合いにして書かれた学部レベルのレポートである。アメリカ経営学を殆ど論証も実証もなく実証主義と決めつけ(アメリカのプラグマティズムやアイン・ランド流の「客観主義」なども全く無視して)、しかも同じアメリカで支配的だというだけの理由で、こともあろうか「論理実証主義」なんてキーワードを縦横無尽に振り回す。そして、わざわざ注釈に論理実証主義は1990年代に批判されるようになったとまで嘘を書いている。神戸大の教員だった方らしいので、残念な話ではあるものの、現在の神戸大で経営学を牽引する金井氏には、こうした思想的な粉飾と言うべき紛い物の哲学話は慎むように願いたい。正直、こんなクズみたいな本が出版できたのは、岩波書店の編集者が著者のように新左翼系のポストモダンに薄っぺらい親近感をもつ思想おたくだからだろう(高校時代に学校の近くにあった左翼系の書店に置いてあった中核派の雑誌にも、たとえば「天皇制を脱構築する」とか記事を書いてた人物がいたものだ)。

また、実証主義を超える思想として紹介されているのが、これまたお馴染みのマイクル・ポランニーである。日本の経営学者は、どうもこの「暗黙知」という、日本の職人気質や、あるいは口に出さなくても阿吽の呼吸で分かるコミュニケーションといった錯覚を正当化するようなフレーズが大好きのようだ。しかし、21世紀の学術研究においては、こういうものが結局は(残念ながら現代の哲学者には非常に多い)素人心理学やアマチュア認知科学にすぎないという冷徹な事実を弁える見識が求められると思う。

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