Scribble at 2024-07-01 11:15:45 Last modified: 2024-07-01 16:32:14

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Pokemon Go や Ingress の流行が始まった7年前くらいだったか、公道でスマートフォンを眺めながら歩いたり、特定の場所に集まって他の歩行者の迷惑になる勝手なやつが増えるだけだと Twitter で(既に消した @philsci というアカウントで)公に非難したことがあって、そのときにも都内の IT 小僧とかが「老害」だの「クリエーティブを阻害する」だの「イノベーションを抑圧する」だのと、確か DM でも罵詈雑言を送ってきた覚えがある。というか、その当時も企業の CPO として個人情報の取扱いに関わる事案に携わっていて、幾つかのサービスなり事業を脱法行為などと指摘したため、とにかく都内の IT 小僧からは、色々な事情で技術的な進展やら新しい素敵なサービスにブレーキをかけようとする、大阪の事務屋のジジイ(僕は技術者でもあるがね)と見做されていたのであろう。

それはいい。でも、あれから7年くらいが経過して、彼らの生活とか事業はどうなったのだろうか。その当時もいまも、何か新しいサービスやアイデアが出てくると「イノベーション」だの「クリエーティブ」だのという言葉を大義名分のように振り回して、自分(の会社)に都合が悪い決まり事をなんでもかんでも障害や悪法だと考え、まるで規制や法律が一つもなくて、世界中の他人が自分一人にとって都合よく生きているような世界がハッピーであるかのような、僕に言わせれば「セカイ系」なんて生易しい錯覚ではなく、端的に言って頭がおかしいんじゃないかと思うような人々が経済や産業をリードするようになるのは、恐らく致命的な結果を招くと思う。

Pokemon Go が登場した当時、特定の場所に何等かの効果とか特典があるという仕掛けで、多くの人々が特定の場所に集まるという現象が起きた。位置情報を使うゲームであるため、たとえばゲームをプレイするのと同時に、或る場所の現況を伝えるツイートなども利用して、イスラエルやパレスチナでプレイしている人々が状況を教える道具になると期待されたりした。

https://thejerusalemfund.org/2016/07/palestinians-use-pokemon-go-highlight-life-occupation/

しかし、現実には位置情報があるため、双方にとっては情報漏えいになるという理由でゲームが禁止されるという結果になってしまった。もちろん日本でも、Pokemon Go に限らず位置情報を利用したゲームのプレイ状況を SNS でツイートしてしまい、悪い結果となってしまった人はいる。確かにゲームそのものが原因というわけではないが、こういう利用のされかたを「ソーシャル」などという言葉ひとつで世界や社会がどうにかなると期待したり想像していた人々は、よく考える必要があろう。

https://logmi.jp/business/articles/325497

それから、これは Pokemon Go とは別の一般論にはなるが、「厳しい規制は良くない」というフレーズを使って、誰もが認める常識であるかのようにミスリードする人がたくさんいるんだよね。「厳しい規制は良くない」って、一見するとなるほどそうだと思いたくなるような表現だけど、実はここで「厳しい」という漠然とした言い方で、自分にとって都合が悪いものを取り除こうとする人々にとって有利な基準にも多くの人の同意を求めてるんだという、レトリックというか言葉のインチキに騙されないようにしたいものである。なぜなら、或る規制が「厳しい」かどうかは一概に言えないからだ。それを一般論であるかのように表現してしまうと、なかなか反論しにくくなる。そして、そういう心理を利用して、自分が否定したいことを一緒くたにみんなにも否定してもらおうというのが、こういうフレーズを悪用する人の目論見なのだ。

たとえば、日本の個人情報保護法なんて EU の GDPR に比べたらザル法もいいところなんだけど、プライバシー情報を使って金儲けしたいやつらは、「個人情報保護法は技術革新を妨げる『厳しすぎる』法令だ」なーんていうキャンペーンを張るんだよ。そこで、日経新聞なんかのメディアを利用して、日経新聞は「厳しすぎる規制は云々」という一般論を言ってるだけだから、個人情報保護法という特定の法令が厳しすぎるかどうかを非難しているわけではないので多くの人の賛同を得るんだけど、実はメディアにそう言わせておいて、その裏で自分たちがかいくぐりたい法令を骨抜きにする(そして、何か問題が起きると「厳しすぎる法令で身動きが取れない、先進企業を率いる不幸なヒーロー」というプロパガンダを展開する。いっとき、ホリエモンがこういう手法を使ってて、都内のリバタリアン連中や若造から同情を買うという対立の構図を煽っていた)というのが、そういう脱法行為で金を稼ごうとする連中のテクニックであって、都内の IT コンサルとかベンチャー・キャピタルなんてのは、そういうテクニックを指南している連中なんだよね。

https://anond.hatelabo.jp/20210218212021

あと、覚えてない人も多いとは思うけれど、PEZY Computing という20人くらいの IT ベンチャーがあって、Pokemon Go がリリースされた後の2017年に、国から巨額の助成金をもらっていながら社長が違う用途で金を流用してて逮捕されたという事件があったんだよね。で、PEZY の社員であろうと係争中の事案についてよく知らないはずの一般社員が、最先端の IT を知らないやつは黙ってろとか、あるいは技術革新のためなら許されるみたいなことを Twitter で書いてしまったんだよね。それこそ経営についても PEZY の財務についても「知らないやつ」でしかない末端の社員がそんなことを言っちゃうのって、都内の IT ベンチャーとかスタート・アップ界隈には、やはりそれなりに似たようなメンタリティがあるんだろうと思わせられる事例だった。だって、経営者が似たようなことを普段から言ってなければ、末端のパソコン坊やが産業政策にかかわるようなことについて、気楽に自分の意見として放言でしかないようなことをわざわざツイートするなんてことは、およそ考えにくいよね。あれはたぶん、彼らにとっては常識やセンスのようなものであって、「社風」というべきものだったんだろう。それゆえ、反面教師として、僕もいまの会社で情報資産なり個人情報についていいかげんなことをする社風みたいなものができないよう、ものごとを過小評価しないようにしている。

ここまでの議論で言いたいことというのは、つまり規制であれイノベーションであれ人権であれ、そうした事項を相反するものだとかトレード・オフだと考えること自体が、それらの構図を利用して儲けてる連中に騙されてるだけだということなんだよね。なので、なにも Pokemon Go がリリースされてから7年くらいがたつのに、このゲームでコミュニティを醸成する力が養われて社会貢献だのなんのという夢物語を語っていたような連中を嘲笑うことが目的なのではなく:

https://mag.sendenkaigi.com/kouhou/201610/honda-global-topics/008864.php

https://www.asahi.com/articles/ASQ856TCPQ85IIPE003.html

まぁこの二つの記事は宣伝する側の人間が語ってることだから、最初から過大評価や嘘があるのは当然なんだけど、似たようなことを一緒になって言ってた人はたくさんいたよ。で、そんな連中のことはどうだっていい。問題があるのは、「クリエーティブか著作権か」とか(フェアユースによる二次創作のクリエーティブを許容すると著作権が制限されるなどと言われる)、「イノベーションか人権か」(技術開発や発電設備によってパーソナル・データや住環境が侵害されるなどと言われる)とか、「社会の安全か、それともプライバシーか(監視カメラの設置についてよくある議論)」とか、社会政策や産業の発展というものが、そういう二者択一で決まっているとか決まるべきだという印象操作に騙されている人が多いということなのだ。これが単純な二者択一だと思い込まされていると、早い話が現状について「どっちが優勢なのか」という尺度をものを考えるようになってしまう。そして、両方を適切に奨励したり保護するという考え方が視野からなくなってしまうのだ。それこそ、僕に言わせればイノベーションやクリエーティブの欠如だと思う。

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