Scribble at 2023-05-21 08:28:54 Last modified: 2023-05-21 08:44:07

僕が考えている「保守」というのは、やれ日本だのアメリカだのという、人が生きるにあたって本当のところはどうでもいい国なんていう単位でものを考えたりしない。およそ人である限りはどこであろうと通用する、われわれ平凡な人間の知恵や経験から出発してものを考えるべきだという、言ってみれば酷く単純な発想である。でも、それを突き止めたり比較対照して確定することは難しい。歴史を正確に知る必要があるし、もちろん現代と過去を比較するだけではなく、色々な地域との比較も必要となる。そして、異なる地域や時代と比較対照していけばいくほど、特定の地域だとか時代に制約されたものの考え方というものが削ぎ落とされていくわけで、おのずとわれわれが尊重するものの考え方とか原則とか観念は著しく限られたものになっていく。したがって、勘違いされると困るのだが、僕は「世の中の常識」なんてものを保守しようと言っているわけではない。平凡なわれわれの大多数が共通に抱いているであろう知恵は尊重するが、凡人の常識なんて知ったことか。そういうものは、たいてい特定の時代や地域や職能や世代や性別などに制約された偏狭なものの考え方を、まるで当たり前のことであるかのように装う屁理屈の別名でしかない。かなり皮肉なことだが、凡人にこそ、平凡な人間の知恵なんて簡単には分からないのだ。

そうやっていくプロセスから特定の個人的な信条を救いたいという、僕に言わせれば歪んだ動機をもつ人間は、救いたい観念と守るべき観念とを包含するような上位概念への抽象化を無理に試みようとして、いたずらにものごとを短絡化したり曖昧にする傾向がある。日本の右翼と呼ばれる無知無教養な連中が、何かと言えば雑で曖昧な議論や感情論に逃げ込もうとするのは、そういう観念的な逃げ場所、いまの流行語で言えば「心理的安全性」を維持できる思考に安住することを好むからだ。そして、逃げ込む場所がなくなると、そういう連中はたやすく「ハラキリ」(本当に自殺する場合もあれば、テロという迷惑なことをやるやつもいる。あるいは比喩として何かの活動をやめたり、それまでに貯め込んだ小銭を抱えて長野県でパン屋でも開いたりする)をするわけだ。こういう、われわれ哲学者に言わせれば、本来ならものを考える力がないとしかいいようがない愚劣な連中を、これまでは一緒くたにされたきた保守の思想から駆逐することが、ひとまず僕らのような人間の役割ではないかと思っている。

はっきり言って、われわれ保守は、右翼や反動・復古主義(たいていは歴史の正確な知識や理解なんてもってない)なんかと一緒にされるのは不愉快だ。

たとえば、アイヌの人々を指して、彼らこそが北海道に侵入してきた異民族であるなどと、いけしゃあしゃあと言ってのける偏狭な人間がいて、いまだに右翼の大物学者などとして一部の出版社に珍重されている。かような人間にとっては、どういうわけか北海道という島がもともと「日本」とかいう国の領土の一部であることは論理的にも歴史的にも不可避であったらしく、まさに1憶年前からあった島でも、そこへ入ってきた者は全て「日本への侵入者」扱いとなる。では、最初にそこへ移り住んだのが、彼らの言う「日本人」とやらでなかったとしたら、いったい彼らは何の根拠をもって「そこ」が「日本」であるなどと言えるのだろうか。

もちろん、実はこのような議論も保守の観点から言えば愚かな考え方の応酬に堕する可能性がある。なぜなら、人が生きるにあたって或る土地が「日本」であろうとなかろうと、そんなことはどうだっていいからだ。われわれが国とか地方と呼ばれる区画を不動の境界線であるかのように錯覚しがちなのは、何十年も前から言われていることだが、単なる島国根性による錯覚でしかない。どういう集団にもテリトリーはあるが、その境界は常に確定しているわけでもないし、周辺の集団と安定した関係が保たれていても境界が安定しているとも限らない。たいていの境界なんて、人為的なものであって、そこに住んでいる人々の生活や環境など色々な要因や事情があって、たとえば天災のせいで物理的に変わってしまったり、あるいは人数が増えて手狭になったりして拡張する欲求が高まったりして、話し合いや紛争などで変わるものだ。そういうことが少ない安定した時代に生きているからといって、国境や都道府県の境界が永続するかのような錯覚を根拠にして、どこまでが「日本」だのという話をしたり、いつまで、あるいはいつから「日本」なのかという話をするのは、愚かとしか言いようがない。保守の人間は、そんな視野狭窄な子供じみた砂場の取り合いみたいな発想で国家や民族を論じたりしないのである。

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