Scribble at 2024-04-27 11:52:35 Last modified: 2024-04-28 00:13:21

本日は、当サイトで5年ほど前まで(つまり実母が亡くなる頃まで)色々とページを掲載していた「歩行論」に関連して、疋田 智氏の『自転車の安全鉄則』(朝日新書)を読み始めている。当然ながら、僕は大阪どころか全国規模でも有名なトモダサイクルという自転車店でロード・レーサーを組んでもらったくらいの、アマチュアとしてもまともなバイクに乗ってきた人間だという自負があるけれど、他方で自転車に乗る条件や体力が整っていないという理由で、ここ20年くらいは全くロード・レーサーに乗らなくなった。更に、自宅から15分ほど歩いた駅前の駐輪場に、いわゆるママチャリを置いているのだが、ママチャリに乗るために15分ほど歩くという事情もあって自転車そのものに乗らなくなった。でも、大阪市内で生活するなら自転車すらたいていの用事では不要なのである。

よって、著者は自転車というけれど、僕は自転車すら不要な社会にするのが理想だと思っている。歩けないほどの距離を移動しなくては生活にとって必須の用事ができないなら、もうそういう人は、或るていどの限度がある福祉政策の対象として扱う方がいいだろうと思う。そうでもない限りは、はっきり言って不便でない場所に転居するべきか、生活に困ることを甘んじて受け入れるべきだ。テレビでも、山奥の一軒家に独りで住んでいる人を取材したりするが、そういう人物一人だけのために、近くに病院や消防署を何億円もかけて建設・運営する行政上の責任など、政府や自治体にはないのである。そして、そんなことをするのは「福祉」ではないと思う。それは福祉政策という概念の曲解だと言いたい。

ともあれ、僕の自宅の周辺にも若い住民が増えてきていて、リモート・ワークをしているから大して遭遇する機会はないけれど、やはり朝に出勤するときは、歩道を爆走するママチャリだとか、信号が赤でも横断歩道に突っ込んでくるロード・レーサーとか(外国製の50万円はするバイクに乗って、ヘルメットもしていて外見はアマチュア風だが、しょせん中身はクルクルパーの成金だろう)そういうのが狭い街路を行き交っている。確かに、ママチャリだろうとロード・レーサーだろうと、発進にパワーがかかるため、停止しづらい(止まりたくない)のは分かる。しかし、やはりサメやマグロでもあるまいし、止まると死ぬのかという気分はある。いちおう高校時代は片道 10km の通学コースで交通ルールを守ってきた(左へ曲がるときは右手を曲げてサインするといった基本も含めて)者としては、なんでこのていどのことができないのか。おまえたちは道路交通法を守って、何かに30秒でも遅れると、敵国からの攻撃に対応できなくなる航空自衛隊の空将なのか、それとも犯罪者を取りにがす大阪府警の警視なのか、あるいは数億円の被害が出てしまう証券会社のトレーダーなのか。これはいまの仕事にも言えることだが、はっきり言って秒単位どころか1時間単位の行動の違いで事業評価が左右されるようなレベルの仕事をしている人間など、この日本に10人といまい(現に、有休を1日取っても会社が倒産するほどの重要性をもつ社員なんていない)。

それから、歩道を自転車で走る人の理屈として、車道を尊い命(博報堂のコピーライター風に「いのち」と平仮名で書く人も多い)の我が子を乗せて走るのは危険だというものがある。我が子の命に比べたら、障害者だろうと老人だろうと歩道の他人など知ったことかというインチキ母性をまくしたてる露悪家もいるだろう。そういう「ホンネ」を語るほうが、多少の炎上はあろうと却って同調者を集めやすいという SNS 上の傾向があることを知っているからだ。しかし、これは本書にも書かれていることだが、全くの事実誤認であり錯覚なのだ。実は、歩道を走っている自転車の方がクルマ(字面の形が「自動車」と「自転車」とでは紛らわしいので、自動車だけわざと「クルマ」と表記する)と衝突する危険性は圧倒的に高いのである。その理由は、クルマに乗る人であればよく知っていると思う。交差点で左折しようとしてクルマを曲げると、歩行者は歩いているから横断歩道へやってくるのがゆっくり見える。だが、車道側に色だけ塗り分けられたような「自転車通行レーン」という危険な箇所を猛スピードで走る自転車などは、左折するクルマなど見ていない。自転車に乗っている人間は、ジョギングしている人間と同じく、心理的に「一時的な全能感」に取り憑かれることがあるため、自分のやることを誰も止められない、左折するクルマも自分を避ける筈だという、帝王学のような錯覚に陥る。よって、横断歩道へ突っ込む自転車と左折するクルマが出会い頭にタイミングを敢えて合わせたかのように、綺麗に衝突して、自転車がギャグアニメのように美しく跳ね飛ばされる(そして、その結果はギャグどころではないわけだが)。そして、これは歩道を走るという愚行を過信している自転車の過失なのだが、現代の法律ではクルマのドライバーの前方不注意となるため、馬鹿な自転車乗りの愚行の被害者であるはずのドライバーが罪に問われる。ドライバーが自転車に乗る人間をことさらに嫌うのは、こういう理由もあるのだろう。事故にならなくても、そうなりかけた経験が、たいていのドライバーにはあると思う。

この他、二つほどコメントしておく。

一つは本書でもたびたび取り上げられている、非常に危険で不合理な「自転車横断帯」である。これは、横断歩道で歩行者が横断するゼブラ・ゾーンの横に自転車マークがある通行帯のことだ。この危険性は何度も指摘されていて、上で述べたように左折するクルマがここへ突進してくる自転車を気づくのが難しいという問題がある。自転車が車両として、クルマといっしょに車道で動いていれば分かりやすいものを、歩道側に自転車レーンを設けて、更に自転車専用の横断歩道などという馬鹿げたものを作っているせいで、かえって自転車はクルマに撥ねられやすくなる。

そういうことに気づいたのか、ゼブラ・ゾーンの修繕作業を行う際に、この自転車横断帯をアスファルトで消している横断歩道も増えてきた。これは、自転車に乗っている人を保護するためのものであって、自転車を邪魔者扱いする施策ではないし、もともと法律から言えば、横断歩道を自転車で渡れるのは、特例として自転車を押して歩くときだけなのだ。乗って横断すること自体が違法行為なのである。

そしてもう一つが、車道に自転車レーンを設けても通る人が増えにくい原因の一つとなっている、違法駐車だ。僕の自宅の隣にあるマンションの1階には零細企業が入っていて、入口の前にはワゴンが停めてある。それが敷地から斜めに車道へ飛び出していて、その箇所は一車線が半分ほど通行不能になっている。しかも、すぐ斜め向かいには交番があるのに、警察官が事務所へ入っていってクルマを移動させるように注意している様子などまったくない。同じく、車でなくても、歩道や路側帯のない日本の道路には、街中だと飲食店の看板、個人宅の大きな花壇やオートバイが自分の庭であるかのように置かれているのを誰でもご存知であろう。そして、しばしば社会学者とか文化人類学者とか民俗学者と呼ばれる、超然とした学者ぶったスタンスで庶民の愚行を正当化すらしている愚劣な連中がいて、やれアジアの街にある特性(つまり避けられないし是正もできない物理法則のようなものだと言いたいのだろう、こういうバカな連中は)だのなんのと指摘しては、いつものことだが社会科学の無能どもによくあることとして、指摘して何か特別な名前をつけたら業績になると思っている。しかし、端的に言って社会防衛の理屈から言えば、現実の事故という問題もあるし、邪魔な看板を蹴ったりして店員と喧嘩の原因になったり、あるいは社会心理学として見ると人々の遵法意識を低下させる原因にもなるわけで、こんなものを文化だの民族の伝統だのアジアの特性だのと言ってのける連中の「文学作品的社会科学」や「naming science(なまえをつけて指摘して喜ぶだけの、愚劣な社会科学)」は、われわれ科学哲学者がいちいち言わなくても、まともな常識のある人であれば疑問視するべきだし、子供にもこんなものがまともな学問であると教えてはいけない。違法駐車は、誰が何を言おうとただの違法行為であり、犯罪である。こういうことに凡人としての堕落した手加減をするからこそ、色々な問題が放置され、政治家や官僚に丸投げしておきながら、是正されないことに有権者として文句を言っていればいいといった態度になってしまうのである。自分に甘い人間は、逆に他人を厳しく批判しているように見えても、実は他人にも甘くなるものだ。

宅配便の車両であろうと、一時的に駐車するためのエリアを車道から外れた場所に確保しないといけない。車道は絶対に、その前の建物の住人や借家人の庭でも私道でもないのであって、事故や工事を除いて車両が停車してはいけない場所である。そもそも、会社や店の真ん前にクルマを停められないと、あんたの店や会社は倒産するのかね? 零細や小規模店舗なんて、クルマを停められるかどうかなんて全く関係のない理由の方が事業に決定的な影響があるに決まっているはずであって、もしも店や会社の玄関先に車両を停められないと致命的な問題が生じるなら、最初からそんなことが自由にできない立地に店や会社を置く置くことこそ、経営判断の初手の誤りであって、店舗を開いたり会社を興す資格など無いヘタレであろう。

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