Scribble at 2026-07-28 15:11:37 Last modified: 2026-07-28 15:11:46
This paper demonstrates that in an important class of data-integration problems even Big Data cannot speak for itself: marginal probabilities provided by large and unbiased datasets do not determine a unique joint probability distribution. Big Data must instead be accompanied by further reasoning methodologies for handling unavoidable uncertainties. I assess how Bayesian approaches handle this underdetermination and argue that they face practical challenges when dealing with Big Data that does not speak for itself.
このところ、あまり聞かなくなった言葉の一つが「ビッグ・データ」だ。ひところは、マーケティングの切り札みたいに扱われて、「データ・サイエンティスト」なる職業というか職能が登場し、地方大学でも専門の学科を構えるほどだったが、いまでは IT 系のメディアでもなかなか見かけない言葉になってしまった。
理由の一つは、もちろん生成 AI が登場して多くの人々が「データ・サイエンティスト不要論」を口走るようになったからであろう。データは、もちろんいまでも続々と収集されている。でも、それを格納する専用の data warehouse だとか data lake なども、そこから変換したり規格を整えて送る BI も、まとめて生成 AI が適当に処理してくれると思っている人が多いだろう。なんならデータ・サイエンティストの仕事も生成 AI にやらせようと考えるかもしれない。
そして二つめの理由は、費用対効果の問題だ。中小企業の業務や事業でもビッグ・データに相当する分量のデータを収集できるかもしれないが、それを解析するためのシステムを組んでまで、何のメリットがあるのかということだ。これを明解に説明できる人は意外に少ないし、先行して実績が出ているとしても、それらは上場企業や大企業などの成果であるため、半端な SIer や事務屋の営業が知っているわけもないし、知っていたところで他の事業者に説明すれば NDA 違反である。
更に、僕が思うところでは、実際にも大して成果が出なかったのだろうと思う。それは、そもそもビッグ・データで成果を出すために必要な最大の要素であるプライバシー情報が不足しているために、効果的な解析ができていないと思えるからだ(そして、それはひとまず「良いこと」であろう)。そういう情報は、いまや GAFAM とスマホのキャリアだけが握っている。それ以外の業種なり企業がサービスを始めて展開したところで、結局のところ収集したデータは GAFAM やキャリアが握っているプライバシー情報との関係として解析される他にないく、それ以上のことはできない。
というわけなのだが、ここで紹介する論文は他の理由、つまりビッグ・データの解析によって分かることというのは理論的な限界や制約があるという議論をしている。すなわち、どれほど巨大で偏りのないデータがあろうと、ビッグ・データだけでは何かを語ることができず、必ず追加の推論・仮定・方法論が必要になるということだ。これは、統計学を真面目に勉強していれば当たり前のことなのだが(だからこそ、データについての「サイエンティスト」が必要なのだ。彼らは SAP のようなデータ運用ツールのオペレータではない)、業者に騙されて高額なサーバ一式やアプライアンスのライセンスだけを口に突っ込まれたような中小企業の情シスとかでは、なかなか気が付かないものらしい。
そもそも、多くの分野では、十分大きく、豊富で、偏りのないデータがあればモデルや仮定なしに世界の確率構造を推定できるという楽観論や思い込みがある。これは、実はデータ・サイエンティスト自身ですら、未熟な人材が陥る錯覚だ。しかし、現実の大規模データは複数のデータ・セットが互いに異なる変数の集合を測定しているわけなので、それらの違いを吸収するためにデータ・レイクハウス向けの専用システムや専用の DBMS が存在する。しかし、いずれにしても変数どうしの依存関係は観測できないままだ。そして、この論文の著者は、理想化された条件(無限サンプル・完全無偏差・最大限の変数カバー)があったとしても、唯一の分布という推定を求めることは数学的に不可能であると論証している。先に述べたとおり、医療、政治学、統計的マッチング、バイオインフォマティクスなどでは個体レベルでデータをリンクできない(匿名化、別サンプル、異なる測定技術)ので、大量のデータがあっても依存関係が不明のままだからだ。したがって、データが十分なだけあればモデルや仮設が不要になるという主張は誤りであって、データだけでは依存関係が決まらないので、必ず追加の仮定や推論が必要だという。