Scribble at 2022-07-22 14:07:15 Last modified: 2022-07-23 12:14:06

駆け出しのエンジニア諸君に、オンラインのコンテンツを利用するときの注意として言いたい。それは、サービスやツールの紹介、しかもその動作原理どころかユーザ登録や画面の操作方法という〈とっつきやすい説明〉だけをばら撒いているようなブロガーとかコンサルとかライター、あるいは YouTuber には気を付けようということだ。彼らは、そういう〈分かりやすい〉コンテンツを半ば保身のためにわざとばら撒いているのだと言ってもいい。

なぜなら、そういう目先の悩みに答えてくれるコンテンツを利用し続けることによって、簡単なことだが動作原理や規格や仕様など知らなくてもいいというマインド・セットになってしまうからだ。昔の流行り言葉で言えば「クレクレ君」というわけである。ゲームの裏ワザを YouTube で観る、開発でのトラブル対策を StackOverflow や Qiita で探す、便利なサービスやツールの使い方を人気ブログや解説サイトで読む(人気かどうかはともかく、「現役エンジニアが教える」云々という、本当に現役のエンジニアなのかどうか根拠もないサイトがあるのをご存じだろう)。こういったことを続けるうちに、そういうブロガーやライターや YouTuber といったメディアや人物にロック・インされてしまうのだ。これは、新興宗教やテロ組織や情報商材詐欺師が、あるいはサブカルや趣味のあれこれについて、資格や免許などを勝手に与える団体が、巧妙に使ってきた人心掌握術である。

原理原則がわからないと、どういう状況であれ対応を場当たり的に見つけないといけなくなる。そして、理屈が分かっている方の人間は、色々な状況に当てはめられる理屈や経験をもっているという典型的な情報の非対称性を確保して自分たちの優位性を維持したいわけである。そういう保身を目的としているからには、素人に原理や原則や規格や仕様といった理屈を理解してもらっては困るので、素人、つまり彼ら「ユーザ(敢えて "pupil" と呼ぶカルト団体もある)」には彼らの望む〈答え〉だけを与えて満足してもらい、それがどういう理屈になっているのかということは「小難しくて」「鬱陶しい」ことであるという印象を植え付けておくのが好都合である。もちろん、もともとたいていの凡人は勉強が嫌いなので、そういう態度でも構わないと安心できるようなことを言ってもらえば、彼らも都合がいいわけだ。「庶民の本音」だとかいった利いた風なセリフで、学問あるいは単に学ぶという態度を(某維新の会に所属するゴロツキどものように)時間の浪費だの金にならないだのと蔑む。そして裏では、いくらかの理屈を(もちろん馬鹿が高度な理屈など理解できるわけもないが、少なくとも凡人よりは込み入った理屈を)学び、多くの人たちが知らないところで物事をコントロールしようとするわけである。

こうした、知性や教養に関する〈下方圧力〉というものは、常に色々なところで働いている。だが、情報の非対称性があるというだけでは非難するに値しない。誰もが(凡人であるからには)多少は保身を考えて、自分だけが知っていることを使って仕事をしている以上は、もちろん大学の哲学教員であろうと学生に比べて知っていることも多いわけで、こういう非対称性を非難しても意味はない。われわれが避けるべきなのは、そういう非対称性そのものに依存してしまっている人物がおり、そしてそういう人たちは自覚するにせよしないにせよ、自分たちが YouTube で動画を配信したりメディア・サイトで記事を書くことが下方圧力になっているという事実に無頓着であるということだ。よって、無自覚な人間に改善を期待するのは難しく、僕ら自身が〈それでは自分自身の生き方として不十分である〉というマインド・セットをもたなくてはいけない。何も、マインド・セットを替えることは「善人」になることでもなければ、「上級の人間」にクラス・チェンジすることでもない。よって、それが「損になる」という利己的な理由であってもいい。

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