Scribble at 2023-07-25 16:14:41 Last modified: 2023-07-25 16:47:08

つい後回しにしてしまい、ここで公開すると書いてから何年も経過してしまったコンテンツがある。それが、『やちまた』人名索引だ。『やちまた』は、大学の国文学の副読本に指定されるほどの価値がある評伝だけれど、索引がない。語句・用語の索引を作るほどの意欲はないが、人名索引は文庫本の上下巻で1,000ページほどの著作物がもつ価値を更に高められる一つの資料となりえる。正直なところ、こんなことはどこかの大学のプロパーか学生ができるしやればいい筈のことだろうと思うのだけれど(それに『やちまた』を評価している人は呉智英氏のような有名人だけに限らずいるのは知っている。そうでなければ、わざわざ中公文庫として再刊されたりはしないだろう)、僕が人名索引を作ると書いてからも似たようなことをやろうとする動きがないので、やはりやると言った人間が責任をもってやるべきであろう。

ということで、本年度中に公開の予定だ。いったんは『やちまた』にあらわれる人名を全て抜き出してあるのだが、その人名が出現する全てのページを記録しているわけではなく、主に短い評伝のように言及されている初出のページだけを記録してあるため(『やちまた』は何人かの国文学者や国学者の短い評伝を集めたような体裁にもなっていて、それが大学の副読本として採用される理由にもなっているのだろう)、索引としては不完全である。よって、人名が出現するページを全て記録するという、更に丁寧な作業を終えたら、実は公開できるわけだ。

予定としては、当サイトの論説としてウェブ・ページの体裁で公表するつもりなのだが、『やちまた』を読みながら利用することを想定して、印刷用の PDF も用意する。

それから、どうしてデジタル・データをもっている中央公論新社がやるように勧めないのかと思う人がいるかもしれない。確かにデジタル・データから索引を作るのは簡単なことだろうとは思う。人名としてヒットするための条件が正確に指定できれば、ものの数分で索引なんて出力できてしまうだろう(たとえば NLP によって最低でも名詞であるかどうかの判定は簡単にできるだろうから、後は人名辞典として別に用意したデータベースと付き合わせればいいわけだ)。でも、たぶん出版社はそういうことをしない。そういうことをして作成した索引も、隣接著作権が設定されている可能性があるからだ。厳密には、僕がプライベートで作成した人名索引を自分だけで使うのはいいが、当サイトで配賦するのは問題があるかもしれない。

少し調べてみた限りでは、まず著作権法で保護される「著作物」というものは、著作権法第2条に定める「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」というのが形式的な定義である。ところで、僕が公開しようとしている人名索引は、

・実在する人名

・或る著作物の中に人名が現れるページ

という二つを組み合わせた文書なのだが、まず第一に人名には著作権がない。「河本孝之」とか「本居宣長」という人名は、それだけで思想や感情や学術的な成果を表しているわけではないからだ。しかも、『やちまた』に記述されていて僕が索引を作ろうとしている人名は全て他人の人名であり、『やちまた』の著者である足立巻一氏ですら他人の人名について著作権は設定できない。そして、その人名が著作物の何ページに現れるかという情報は、それだけで単独の価値をもつものではなく、あくまでも『やちまた』という著作物について調査した成果なのであるから、学術的な意義から言っても『やちまた』という著作物について設定されている著作権(隣接著作権も含む)によって公表・配賦が制限されるとは思えない。これは、たとえば『やちまた』について書かれた書評の公表が『やちまた』について設定された著作権によって制限されるわけではないのと同じことであろう。ただし、その書評が異常な分量で書かれていて、実質的に『やちまた』の本文全体を(デリタがサールをおちょくって書いた論文のように)含んでしまうようなものでない限りだが。

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