Scribble at 2023-12-05 17:42:26 Last modified: 2023-12-05 19:16:30

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これまでに何度か書いてきた話だが、特に日本の数学者や数学教員が書く教科書の類は、非論理的で議論の飛躍がある拙劣なものが多い割に、昔から「行間を読む」だの「数学的センス」だのという超能力をもつ者だけが数学を語る資格があるかのような、哲学者として言わせてもらえば愚劣としかいいようがない時代錯誤の風習がまかりとおってきた感がある。そして、いまでも多くの理数系の教科書には伝統と言っていいほどの未熟な文章表現が散見できる。

上記は、連れ合いが高校の「情報」課程で教えられている単元の内容や質に興味を覚えて購入した、数研出版の『情報I』の教科書(坂村 健/編、2023)だ。最新の高校教科書であり、しかも日本を代表する情報科学の研究者でもあり、TRON という OS を手掛けた坂村氏が編纂したというのだから、情報の教科書としては申し分ない。それでも、たとえば2進数を16進数に変換している基数変換の解説にはこういう文章がある。

「たとえば,2進法で表された数 ^^1011 0011 1100_{(2)}^^(10進法では2876)は,桁が多く扱いにくい。そこで,^^1011 0011 1100_{(2)}^^ のように右から4桁ずつ3つのまとまりに区切り,4桁ずつ10進法に変換すると,^^1011_{(2)} = 11^^ ^^0011_{(2)} = 3^^ ^^1100_{(2)} = 12^^ となる。この場合,変換した数は ^^16 (= 2^4)^^ を基本とした数になる。このような数の表し方を16進法という。」(p.51)

ここで、「変換した数」というフレーズが出てくるが、これはなんのことだろうか。日本語では、変換される前の元の数も「変換した数」と書けるし、変換した後の数も「変換した数」と書ける(それどころか、どちらも「変換された数」という表現すら受け付ける)。だが、変換する前の数は4桁ごとに分割した2進数なのであるから、これが16進数の数であるわけはない。すると、11とか3とか12という変換後の数ということになるわけだが、変換した(後の)数が16を基本とした数だと言われても、それは11や3のことなのか。それとも、11や3を何か組み合わせた 11312 のことを言っているのかが、文章では即座に分からない。いや、そもそも変換した後の数は10進数ではないのか。なんでこれが16進数の説明になるのだろう? ・・・と、ここまでわざわざ推論しないと文意を取れない時点で、「数学が苦手」という人の多くは教科書を放り出してしまう。

でも、それは勘違いである。教科書を放り出すのもどうかと思うが、そう感じるのは当然なのである。なぜなら、こんな書き方は教科書として未知の事項を学ぼうとする者に対して不親切きわまりないからだ。恐らく、僕らのように(たぶん)標準的な理解度の人間ですらイライラさせられたり困惑させられるのだから、ディスクレシアや発達障害のように、或る意味では厳格な論理しか受け付けないような人々にとっては、耐えられないほど未熟な表現なり説明ということにもなろう。

ちなみに、良い子のみんなは知ってるように、実は上の引用文には ^^101100111100^^(12桁というだけでブラウザが勝手に電話番号扱いするので、わざと TeX 表記での表示にしてある)という2進数を16進数に基数変換した B4C は全く登場しない。なのに、上の引用箇所の執筆者は坂村氏本人ではないと思うが、こんな文章で基数変換の説明や実例になっていると思い込んでいるわけである。僕が、当サイトで手始めに場合の数と組み合わせの解説を書いていて、基数変換についても書く予定にしているのは、要するに数学者や数学教師の大半がまともな文章を書けないからである。なんで科学哲学者がこんなことをしなくてはいけないのかとすら思う。

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