Scribble at 2023-03-29 08:41:22 Last modified: 2023-03-30 15:06:53

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剃刀や包丁を研ぐブログ記事や動画の多くがインチキ(もしくは、せいぜい刃先と関係のないところを高額砥石で無意味に削っているだけ)だという話は何度かしてるわけだけど、その実例としてバカげた解説をしているブログ記事の内容を紹介したい。具体的に記事の URL を書くのは避けておくが、その記事では刃先を敢えて二段にしており、まず最初に「メインの刃は、30度くらいの角度になるように小刃付けを行い(砥石に対しては15度)刃持ちするように、エッジに糸刃を付けています」と説明している。そして、その次に尖端部分にあたる糸刃について「砥石の上を横滑りさせるようにして糸刃を付けています」と言う。

これは間違いである。

その明白な理由は、上の図を見ていただければ分かる。まず刃先を砥石に15°で当てて研ぐと、(3) で示した赤い部分が削られる。そして、次に角度を更に小さくして(砥石の上を「横滑りさせる」とはそういう意味にしか取れない)研ぐと、(5) のように刃先とは関係のない緑色の根元部分が削られるだけだ。絶対に「糸刃」なんて付かないのである。研ぐ角度を小さくしていけば、YouTube で大量の動画を公開されている兵庫の宮村氏が解説するように、蛤刃の形状となって、先端は鈍刃になるのである。

これが単なる書き間違いなのか、それとも結果的に最初に15°の角度で研いだ刃先が「糸刃」みたいに残っただけなのを、角度を変えたり砥石の番手を変えたことによるものだと勘違いしているのかは分からないが、とりわけ剃刀については上記のように酷い解説のブログ記事や動画が大量にあって、正直なところ材料工学の誰かが何か書けば終わってしまうような初歩的な話を「必ずしもこれが正しいとは限りません」だの「やり方には色々あります」的な coward excuses を置くだけで撒き散らす研ぎ師や剃刀マニアが世界中にいて、単純な話をグルグルと巻き戻しては間違ったことを書いて上書きしたりして何十年もやってる。そして、それを職人芸だの伝統芸能だのと内輪誉めしているわけだ。バカな連中である。

ともかく、駄目な研ぎ動画や研ぎブログの見分け方として、以下のように言っておいて良いだろう。

・研げていると判断するための基準を言わない

・無暗に根拠のない分類(糸刃だ小刃だ切れ刃だ・・・)を持ち込む

・使う砥石の種類や番手の選択理由を言わない

・研ぐ物体の向きを説明しない

・研ぐ経路の理由を言わない

・研ぐ回数の理由を言わない

・研ぐ力の入れ方や手の押さえ方を説明しない

・研ぐ姿勢について注意を与えない

こうした、他人に何かの手順を説明するときに指示して当たり前のことを言わないのは、その人自身が他人の見様見真似しかしてないからだ。結局、自分でもなぜそうしているのか分かっていないのである。これは、会社でマネジメントをやるような立場になれば誰でも分かると思うが、仕事の最も駄目な指示の仕方なのだけれど、それを「職人芸」だ「経験」だなどと錯覚している人が多いからこそ、誰もそんなものに興味を持ったり関心を払わないのである。本来、技能や芸能というものは、説明する方が教え切ったと思った範囲を越えてまで、説明されている方が何かに気づいて受け継ぐなり、それを短所とみて乗り越えてゆくものだ。そういう鍔迫り合いを先達とやってこそ、名倉だ、天然砥石だ、たたら吹きの鋼だというレベルの道具を手にできるのだろう。YouTube や TikTok やニコ動なんてステージで、チンピラの迷惑動画や女子高生のオナニー動画と並んでるような場所で、たかがパフォーマンスで適当に出来合いの道具を削ってるだけの連中が何言ってんだよ。

できる人(特に、お金と時間)しかできないということは、要するに人が生きるために必須ではないということでもある。しかし、髭を剃るかどうかは、確かに剃らないからといって死ぬわけではないにしても、やはり伸びすぎると不便だし社交としての支障もあろう。であれば、多くの成人男性にとっては、誰もが名倉だ10万円の京都の石だ名人に弟子入りだ玉鋼の剃刀だ、なんて関係なく髭を剃ることくらい出来るし、やらなくてはいけないのだから、みんなカートリッジの剃刀や電気シェーバを使うに決まっているのである。

僕らの仕事でも同じことが言える。エンジニアとしてサーバを自分で構築するメリットとか基準や手続きを説明しないでウェブ・サーバを用意しろと言われても、多くの人は困るだろう。だからこそ AWS やレンタル・サーバを選ぶ人が多いのであって、丁寧な説明もせずにそういう人たちに文句を言ったり、それどころか自分たちは彼らと違って自分でサーバを構築していて高級なことをやっているなどと考えるのは、大企業のキャンペーンなどでサーバを構築したり運用しているプロの(敢えて言わせてもらうが、有能な)エンジニアとして言うが、それは深刻な錯覚であり自己欺瞞である。

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