Scribble at 2023-05-04 16:36:48 Last modified: 2023-05-04 16:39:35

日本理容美容教育センターが発行している『理容技術理論2』で解説されているシェーヴィングの技法や知識を参考にしながら、自分で髭を剃るというシーンに照らしたオリジナルの解説を構想しているのだけれど、もちろん当サイトの論説でも触れているように、理容師の技法と自分で剃る技法には幾つかの違いがある。理容師が習得する知識や技法の大半は、確かに自分で剃る場合にも当てはまる。しかし、理容師の技法は他人の髭を剃るためのものであり、自分で剃る場合には適していない内容や、あるいは自分で剃る場合には考慮しなくてもいい内容がある。

たとえば、自分で剃る場合には添え手だけでなく、自分自身の顔の筋肉を自分で動かして剃刀の運行に対応できるし、舌で顔の皮膚を内側から押し出したり、自分で色々な対応がとれる。これは、理容室ではクライアントにあれこれを指図することなく、理容師が自らクライアントの顔を添え手で何とかしないといけない状況に比べたら、いくらかの自由度が増す。

他にも、たとえば剃刀の持ち方は教材で教えられている以外のパターンがありえる。「フリーハンド」と呼ばれる持ち方にも、tang のあたりに親指と向かい合わせて添える指を1本とするか、2本とするか、あるいは3本とするかは、人によって、あるいは髭を剃る部位や角度によって色々とありえる。決して教材で書かれているように3本の指だけを添えるのが「正解」というわけでもないだろう。実際、自分で剃る場合の特徴(そして、恐らく利点にも限界にもなりえる)は、条件に応じて複数の選択肢があるということだ。

そして、幾つかの海外の解説動画なども観たうえで印象として言えることは、当サイトでも何度か強調しているように、髭剃りは各人の肌や体調や剃る環境や用具のコンディションなどによって採用できるシェーヴィングの手法とかアプローチが幾つかありえると考えるべきであって、特定の条件に適した手法や考え方だけを「正解」や「基本」だと言い立てることは、逆に融通の利かないスタンスに固まったシェーヴィングを押し付けてしまうことなる(そして、それで失敗するとやる気を失わせる)。或るやり方が難しいか、あるいは肌を切ったりひりつかせると思えば、別のやり方を試せるようにするべきであって、要は望むていどに髭が剃れたらいいのである。

髭剃りは新潟の三条市や岐阜の関市で北斗神拳さながらの一子相伝で受け継がれている秘儀でもなければ、ヒルズに住んでいるような FX 成金だとかヤクザの金で上場したような IT ベンチャーの社長だけが嗜む暇潰しでもない。古来から多くの名もない人々がやってきた、生活の一部にすぎないのである(ちなみに、これは決して左翼的な動機で「庶民」だの何のと理想化された凡人どもを美化するために言っているわけではない。髭を剃るのが上手いレイプ魔や剃刀愛好家のクズ右翼もいる筈である)。可能であれば誰でもリスクなしにできるのが望ましいのだから、現代においてはカートリッジ式の安全剃刀を使って髭を剃るのがベストな方法に決まっているのだ。それでも、或る種の趣味として SR を使いたい人が幾らかの投資や準備や勉強を通して楽しむのが、健全な姿というものだと思っている。京都のよく知らん山で採れた50万円の天然砥石や、18世紀のイギリスで製造された20万円のヴィンテージ剃刀がなければ十分になしえないようなことではないのだ。

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