Scribble at 2024-11-24 10:35:17 Last modified: unmodified
小説や映画、いやそれに限らず実生活でもだが、僕は人の名前というのがぜんぜん覚えられないし、実はどうでもいいことだと思っていたりもする。しょせん、実生活だろうと小説だろうと、或る属性、つまり性格なり地位なり人間関係なり才能なりをもつ人物がいて、その人物が同一性・・・いや、哲学にはこの同一性(personal identity)が何であるかを延々と議論してる人たちがいて、僕は実はこんなものは哲学の問題ではない(と哲学的に sweep out できる)と思っていて、同一性すら必要ないと言えばないんだけど、ともかく誤解が生じないていどに僕や世の中にとって一定の連続した役割とか目的をもってなにかをしているだけだと思っているから、そのステータスを他の誰かと取り違えることで何か致命的な問題が起きない限りは、その人物がどんな名前をもつかは些末なことだと思っている。もちろん、いま書いたように、僕は哲学で伝統的に議論されてきた「人格(person)」の同一性なんていう観念を哲学で議論するべきことだとは思っていない(と哲学的に論証できると思う)ので、はっきり言えば10年前に「河本孝之」と呼ばれていた人物が10年後に属性として色々と違っていてもいいと思う。というか、ふつう人の人生とか成長とか周囲の人間関係や環境や境遇に対して、人として、それから社会人として適応して変化するのは当たり前のことだと思うんだよね。そこで何か変化しない、人格の核みたいなものがあるなんていうのは、生理的な機構の維持という意味ならともかく、人格だの人柄だのという観念でしか説明できない、いわば「コンテンツ」なり「情報」として固定したデータが維持されてるなんていうのは、僕には安物の SF 小説や漫画の「キャラ設定」みたいなものを現実に押し当てているようにしか思えないんだよね。要するに、勝手に自分たちでこしらえた仕様とか観念を自分たちでややこしく議論しているだけの、まさしく自己増殖的な擬似問題の典型だと思う。そして、こんなものを議論することが哲学であるという自意識は、僕が哲学者として必ず避けるべきと信ずる「自己欺瞞」でしかないのであって、僕は哲学者であるから、当然ながらこういう自己欺瞞に付き合ういわれはないというわけだ。
ということなので、名前なんてものを決めて使ってるだけで、その人物について常に正しく理解していることにはならないわけであって、その人物をそういう言葉なり記号で呼んだり話題にできるからといって、その人物について何でも、そして常に正しく知っているとか理解していることにならないのは当然だ。しかし、名前というものに妙な錯覚を抱くと、その人物について知っているどころか理解しているかのような妄想にとらわれやすい。寧ろ、名前なんてない方がいいかもしれないとすら思う。でも、そうするとモヒカン族みたいになって、或る人物の行動とか発言について責任を問うことまでできなくなってしまうという、人の社会においては困ったことが起きるので(かなり前に書いたが、僕は自分自身を人類史スケールでの保守だと自覚した頃に、いわゆる「モヒカン族」をやめた。やはり主張や意見は発言した人物が「誰であるか」と切り離せない)、匿名で何でも済ませられるとは思っていない。前の段落で述べたように、人の立場や意見は表面的なものだけでなく内面においても変わる可能性はあるから、キャンセル・カルチャーのように過去の発言をほじくり返してまで騒ぎ立てるというのは、僕には安物の通俗哲学なんかが personal identity を哲学のまともな話題なりテーマであるかのように刷り込んできた悪影響の一つなのかもしれないとは思うが、まぁ哲学の入門書にそこまでの影響力なんてないと思うから、たぶんキャンセル・カルチャーが出てきたのには他の事情があるのだろう。せいぜい、社会学者にはがんばって調べてもらいたい。
こういうわけで、社会生活にとって名前は必要であるにしても、僕にはさほど重大なことでもない。よって、例の選択的別姓制度みたいな話も、ここでは何度も書いているが、僕は寧ろ「保守主義」の思想家として支持したい。というか、少なくとも人類史どころか歴史時代だけで考えても、僕ら庶民は大半の歴史を姓なんてもたずに暮らしてきたわけであって、そういうスケールだけに絞った保守主義者として考えても、別に姓そのものがいらないだろうとすら思うんだよね。「孝之」でなにがいけないんだよ。identification の必要があるなら、他にいくらでも方法はあるわけで、一定の文字列を登録してないと identification の基準がなくなるなんて、どんなヘタレ国家だよ(もちろん生体情報を登録したり集めるという短絡的な手法に飛びつくのが正しいとは思わない)。