Scribble at 2024-06-15 13:24:47 Last modified: unmodified

日経コンピュータ『ポストモーテム』(2024)の紹介では、ITゼネコンによる JV(まさしく建設業界のゼネコンと同じく)のように多くの企業が参加したと説明した。一次請けだけでも100社近くが担当し、下請けを含めると1,000社近くになるという巨大プロジェクトである。

みずほ銀行が2019年に稼働を開始させた MINORI という新型の勘定系基幹システムでは、それ以降に数々の障害が発生して大きな話題となったわけだが、その実情を伝える本書は、ただ単にメガバンク一つで起きた事故というだけにとどまらず、多くの点で、僕らのような(たとえ電通・博報堂案件でも)カスみたいな予算とスケールでシステム開発に従事している人間にも教訓があると思う。なので、一読して片付けるようなことではないであろうという気がする。

もとより、僕はウェブ制作やウェブのデザインとかコーディングにおいても、労働衛生安全という人事系の知見を応用して、ウェブ制作業務における「ヒヤリハット」とか「メンタルヘルス」とかを真面目に考えたほうがいいと言ってきたし、その一部は実際に弊社でも社内規程として採り入れている。もうウェブ制作の業界については、多くを期待していないと明言してはいるが、少なくとも退職するまではそれなりに適正な業務を実現するために、いくらか助力したいとは思っている。文句ばっか書いてるジジイじゃねーんだよ。俺は。

で、一つだけ追加で書いておくと、この MINORI ではメインフレームで動くプログラムを COBOL で開発していて、前回の落書きでも、まともに扱える技術者がそんなにたくさんいるとは思えないと言った。ただ、そこで従事すると決めて採用しているなら、どのみち IT ゼネコンの新卒でも3ヶ月で素人に Java を教えて書かせるっていう話だから、要するに缶詰工場の技能実習生と同じていどのことをさせるなら、幾らでも新しい「部品」は増やせるというわけなのだろう。でも、Java を3ヶ月で新卒に教えるのと同じであるなら、それこそ逆にどうして Java を採用しなかったのかという疑問が生じる。Java なら、まさしくそうやって作った IT ブルーカラーが日本のどこにでもいて、僕らのような中小企業のネット・ベンチャーにも毎日のように人材紹介のメールが送られてくる。みなさんもよくご存知のワークタンクの「関戸」氏や、千葉にあるらしい技術者支援機構とかいう紹介会社のメールなんて、たいていのネット・ベンチャーで人事や開発系の部長をしていれば、みんな一度は目にしたことがあろう。Java を単に書けるというだけなら、それこそガキの頃に習字教室へ通っていたことがある人と同じくらい日本にもいるのだ。

しかし、MINORI を従来の基幹系システムで採用したアーキテクチャーとは関係なしにスクラッチから設計したという当時の人々には、Java というかオープン系のコンポーネントや処理系には多くの不安材料があったという。

なぜなら、MINORI の設計が行われていた2004年から2010年にかけての期間と言えば、まだ多くのエンタープライズ・システムや基幹系のシステムで Java を採用した実績が十分に蓄積されておらず、2007年には日本 IBM がスルガ銀行のシステム開発に失敗して巨額の損害賠償を請求されるという事案が起きていたし、そもそも成功事例にしてもシステムが巨大になればなるほど事例も少なく、そして社外に詳しい設計など分かるわけもないし(当たり前だが、複数の銀行の案件を受注している IT ゼネコンにおいて、他行にアーキテクチャーの内容が漏れると大問題だ)、下請けには設計など全く分からないのが SOA なりオブジェクト指向で開発する際の情報セキュリティ的な長所だとも言えるため、下請けからは API やメソッドの仕様などを除けば漏れようがない。つまり、まだ2000年代には Java を採用するだけの十分な確信が持てなかったわけである。いまでこそ「堅牢さ」だけが取り柄とばかりに、エンタープライズ・アーキテクチャの設計においては Java を選ぶことが当たり前のようになっているわけで、寧ろ Java 以外の C++ などを選んで機能要件や非機能要件で十分な設計能力と実績を持つベンダーなんて殆どないと言ってもいいくらいであり(C++ のエンジニアも日本にたくさんいるが、その大半は埋め込み系に従事する製造業界の人たちだ)、なんだかんだ言っても Java にしたって高い信頼性と多くの実績を積み上げたと言えるようになったのは、ここ10年くらいのあいだなのである。

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