Scribble at 2024-05-12 16:35:14 Last modified: 2024-05-12 17:02:10

添付画像

こういう馬鹿げた事例は、当サイトの記事(「英語の勉強について」)で取り上げるまでもないから、ひとまず些細な事でも愚かな事例は叩き潰すのが僕の方針なので、ここで取り上げておこう。このスクリーンショットはメディアの広告モデルを批判するためではなく、その中でご丁寧に2個所も広告を掲載している、「英語は『81文暗記』すれば誰でも話せる!?」だの、「英語を何でも話せる『特別な81文』とは?」だの、この手のインチキに騙されないよう警告するためだ。

まず常識的に考えてみるだけでも、そのデタラメさは明白だ。イギリスの学者だろうと東大教授だろうと、たかが学者一人で、数百年におよぶ外国語教育の理論や実践結果の積み重ねを根本的に覆すような、まさしく「革命的」とか「革新的」と言えるような教育方法が見つかったのであれば、それこそ教育学にノベール賞があったら確実に授与すべき業績となるであろう。それほどの業績であれば、既に何年も前から話題になっていた筈であり、今年になっていきなり理屈として登場し、多くの教育現場で短期間に試されて多くの実績を積み上げた・・・なんてことはないのである。その段階まで、早くても5年や10年はかかるのが普通だ。英語の教育方法なんて、新型コロナのワクチンとは違って、人類の喫緊の課題なんかではないからだ。

ふつう、学術研究の成果というものは、論文として専門誌に発表されて、他の研究者の追試を十分な回数とデータ量で検証された後に、信頼すべき理屈として許容される。したがって、出版社の編集者が目を通しただけの単著が、何百ページの大著であろうと学術研究の業績としてカウントされない場合があるのは、同僚に吟味されていない著作物だからである。では、その「81文」とやらは、いったい言語学や教育学のどういう学術雑誌に掲載されて、どれだけの他の研究者によってレビューされたり追試を受けたのであろうか。あるいは、それを実際に教育現場で試した英語教員が世界中に何人いるのだろう・・・もちろん、こんなデタラメな理屈を授業で採用した教員なんていない。

https://www.quora.com/What-are-the-basic-sentences-we-have-to-learn-in-English

これは Quora という質問サイトだ。10年くらい前まではそれなりに良質な専門家が参加していて、マーク・アンドリーセンとピーター・ティールのディスカッションでも冒頭で Quora での質疑がネタになっていたほどだった。でも、いまでは Yahoo! 知恵袋並の馬鹿が集まるインチキなサイトと化していて、宣伝目的の連中が自作自演の質疑を繰り返すガラクタ置き場だ。正直、あの Stack Overflow ですら大半の質疑は素人に馬鹿が答えるという悲惨なものになっており、管理者やキュレーターが存在しない機械的な reputation だけの CGM では質を保つのに限界があるという実例になっている。で、ここでも "What are the basic sentences we have to learn in English?" などという質問が意図的に投じられている。こういう質問は、認知バイアスやクリティカル・シンキングの本を読む方にはおなじみだと思うが、"theme setting" あるいは「アンカリング」とか「フレーミング」と呼ばれるインチキだ。つまり、英語を学習するにあたって、習得するべき「基本的な文」というものがあるという、何の根拠もないことを当たり前のように仮定して、その中で相手がどう答えるかを要求している。したがって、このような馬鹿げた質問に答えようとする人は、「さくら」であろうと未熟な回答マニアであろうと、質問者が「基本的な文」があるということを印象付けようとしていることに加担しているわけである。

これは、既に当サイトの「英語の勉強について」という論説で強調したことではあるが、81個の文を覚えるだけとか、あるいは他にもよくある、単語を100個だけとか、中学英語だけでとか、そういうイージーな条件で「英語を話せる」とか「英語が使える」などと言っている連中は、自信をもって言うが、全てインチキでありデタラメであり、もっとはっきり言えば詐欺師である。そんなイージーな条件で他人とやりとりしようなんて発想そのものが、英語で暮らしている人々に対して3才児以下の語彙や文法だけで話すというのだから、誠に失礼な話でしかないのだ。そして、詐欺師の常套手段は後から幾らでも取り繕えるような表現を使うことだ。ここでは「話せる」とか「使える」という言葉であり、あなたが「81文で『話せる』」などというサービスだか教材にお金を投じた末に、「ぜんぜん『話せ』ないじゃないか」と文句を言っても、彼らは「いえいえ、われわれが『話せる』と言っているのは、こういうことなんですよ」と、幾らでも条件を下げたり上げたり、あるいは妥当する範囲を狭めたり広げたりする。こうした言い訳のテクニックを、かつては「ご飯論法」などと言ったものだが、そういう名前なんてどうでもいい。要するに詐欺師のインチキだと悪い印象を持っておけばいいのである。

ていうか、この広告は CNN.jp に掲載されていたのだが、CNN の日本版を運営している朝日新聞って、『CNN ENGLISH EXPRESS』という英語学習の雑誌を40年近くも発行してるんだよね。もし「81文」なんていう御託が正しいなら、こんな雑誌を何十年も発行してる朝日ってなんなのって話になるじゃん。つまり、もう最近のメディア・サイトというのは、自分たちの事業とかコンテンツに矛盾するような広告ですら掲載してるってことなんだよな。まったく頭がおかしいとしか思えないね。そんなに広告モデルでしか収益を確保できないのかな。

  1. もっと新しいノート <<
  2. >> もっと古いノート

冒頭に戻る


共有ボタンは廃止しました。