Scribble at 2023-08-06 13:51:08 Last modified: 2023-08-06 13:55:16

このところ技術者の多くが Medium や Substack でブログを運用するようになっている。つまり、記事を有料で配信するというメルマガ式のコンテンツ配信が普及しているということだ。確かに有料でも読むに値する記事はあるし、定期購読してまでフォロー・アップしてもいいという技術者や起業家もいる。

でも、たぶん僕はそういうブログを無視するようになるだろうと思う。明白な理由の一つは、そんな読みたい記事があるたびに定期購読なんてしていたら、サブスクの費用だけで毎月のコストが何十万円にもなるからだ。仮に僕が Feedly でフォローしているブログ(134サイト)が全て月額で$10ていどのサブスクになったとすると、彼らのブログを購読するだけで毎月に189,878円の費用がかかる。仮に、彼らが毎週のように記事を書いたとしても、すべての記事に読むだけの価値があるかどうかはわからない。でも、10本に1本ていどの読むべき価値がある記事のために、一種の賭けとして毎月20万円近くを投資することになる・・・どう考えても馬鹿げている。もし手元に20万円のお金があるなら、Penguin Books のペーパーバックを2万円で10冊くらい買った方が絶対に有益だろう。こんなの、想像したり推論するまでもない話だ。

つまりは、その程度のものでしかないにも関わらず、彼らブログの運営者はホストしてもらっている企業にもレベニュー・シェアとして払うだけのコストを賄わなくてはならないので、そういう過剰な価格設定をせざるをえなくなる。そして、内容が素晴らしければ何人かの購読者は集まるかもしれないが、たいていは1年も続かないわけである。はっきり言って、どこの大学で博士号を取ろうと、その時点から今度は勉強する方ではなく教えたりオリジナルのアイデアを提案する側に回って、入力ではなく出力だけを何年にも渡って(それこそ個々の話題について他のブログなどと競争できるだけの水準を維持するコンテンツを配信して)続けられるような人は、そういない。

すごく雑に言うしかないのだが、だいたい博士号を取得した人間にとって、自分が博士号を取得できたレベルで何かを議論したり解説できる範囲というものは、非常に限られている。したがって、大抵の PhD candidate というのは、研究計画を出す直前にテーマなんて変更するものではないと言われる。少しでも違うテーマにしてしまうと、それを博士号が取得できる(つまりは defense できる)水準にまで引き上げるのは難しいからだ。たとえば、僕が専攻している科学哲学で言えば、ヒュームの研究をしている大学院生が、ヒュームの書いた『人間本性論』で議論されている帰納法というテーマを、いきなり蓋然性(確率)というテーマに切り替えたとする。おそらく、defense できる水準の研究成果が出せるまでに、少なくとも2年くらいは関連する本だとか論文を読む必要があるだろう。帰納法と確率は近いテーマにように見えても、それぞれのテーマが関わっている論点には微妙な、しかし多数の違いがあるため、似たようなテーマだからといって安易に研究計画を変更して博士論文が書けるものではない。

要するに、たいていの著者は記事にできるだけの水準を持つネタが1年もしないうちに(つまり1ヶ月に1本ていどの更新ですら)枯渇してしまうわけである。確かに、水準が落ちた著者のブログは購読をやめて、次の有望な人物のブログをフォローしていくというやり方もできるだろうが、いちいちそんなことを調べ直して、そして本当に読むべき記事を何ヶ月にも渡って書ける人物なのかどうかもわからないのにサブスクし続けるといった試行錯誤を世界中でそれぞれの人がやるなんて、そんな非効率で無駄な話はない。よって、既に購読している人がキュレーターのように Hacker News などへ紹介してくれるのが望ましく、そして単独の記事ごとに「投げ銭」のように pay per view で読めるなら、そちらの方が効率的だしリスクも少ないわけである。

だが、そういうことが当たり前になってくれば、もちろん今現在がそうであるように、ソーシャル・ブックマークも有料記事の宣伝だらけになるのだろう。そして、昨今の子供が YouTuber やライバーを憧れの職業だと思うようになるのと同じく、自分の情報や知識を切り売りするような人々が競争する状態になるのだろうか。

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