Scribble at 2021-09-17 09:45:32 Last modified: 2021-09-18 07:47:13

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Elliott Jaques (January 18, 1917 – March 8, 2003) was a Canadian psychoanalyst, social scientist and management consultant known as the originator of concepts such as corporate culture, mid-life crisis, fair pay, maturation curves, time span of discretion (level of work)[1] and requisite organization, as a total system of managerial organization.

Elliott Jaques

いま読み進めているマイクル・E・クレイナーの『戦略のパラドックス』で、"For my money, the most undeservedly ignored management researcher of the modern era is Elliott Jaques (pronounced ‘Jacks'). The Canadian-born psychologist's work on the nature of hierarchy spans half a century and is based on extensive field data on how people behave at work and how they feel about their roles."(「わたしが考えるに、現代最も不当に無視されている経営学研究者は、エリオット・ジャックスだ。このカナダ生まれの心理学者による階層組織の性質に関する研究は、半世紀がかりで行われたもので、人々が仕事でどのような行動を取り、自分たちの役割についてどう考えているかに関する、幅広い現場のデータを基盤としている。」, p.164.)と紹介されている、エリオット・ジャックスについて調べていた。ウィキペディア(何度も言うが、僕が「ウィキペディア」と書いたときは日本語版のことだ)にはエントリーがない。たいていプロパーがエントリーを起稿しているわけではないので、素人にとって翻訳が殆どない人物は宇宙に存在しないも同然だからだ。ウィキペディアにそういうバイアスがあることなど、既にご承知ではあろう(もちろん他の言語にも同じようなバイアスはある)。

クレイナーが『戦略のパラドックス』を書いている時点では、彼の名前を検索すると500件弱しかヒットしなかったと言われているが(p.431)、2021年だと838,000件(Google classic search)、Bing でも88,400件はヒットする。ただし、その多くは彼の著書を販売する商品ページだったり、彼の名前を持ち出しているだけの些末なブログ記事だったり、せいぜい経営コンサルタントのページでも、通り一遍等の雑な解説が書かれているにすぎない。簡単に言うと、ジャックスの著作を読んでいるのは分かるが、そこで議論されている内容について何事かを考えた形跡がないのだ。そういう、板書の写しに近いものを大量にバラ撒かれていても、それが500件を遥かに上回る数でオンラインに公開されていようと人類の知恵を進展させる役には立たない。A と書かれているという事実について、他人も A という論述があることを知るというコピペが地球上で果てしなく繰り返されるだけのことだ(いわゆる「集合知」なるものを、それが本当にあって有用だとしても、こういう地球規模のコピペと混同している人が非常に多い。実のところ、データを闇雲に共有することなんて人類の知恵の進展にとって必要条件ではないし、できるとしても些末なことなのだ)。もちろん、これは時間を経過すると劣化したり歪曲されたり、幾つものディテールが零れ落ちてゆくわけで、それが幼児のように未成熟な凡人の知性にとって消化しやすい〈まんま〉のようなスローガンだとかフレームワークとか図やイラストや表のように最適化されてゆくと、たいていは極端な考え方や思い込みを増強する燃料になってしまうか、典型的な後知恵バイアスによって「そのていどは当たり前だ。とっくに知ってる」と言って無視されたり過小評価されてしまう。

もちろんだが、ジャックスの見解が実際に軽視して良いていどの知見しか述べていないからこそ、あまり取り上げられていないのかも知れないと仮定することも可能だ。それからジャックスの議論が敬遠されているように思える理由として、彼の議論が組織の区別だけでなく良し悪しの「レベル」あるいは発展段階といった、マズローをはじめとするインチキ心理学を使った組織論に似たところがあるからかもしれない。なんにせよ、アメリカ人に限らずよくあることだが、マイナーな人物を掘り起こして詳細な伝記を書いたり過大評価しては、自分こそが知られざる偉人や天才を見出したと豪語するような人間が、アマチュアだけでなくプロパーの研究者にもいるし、そういう口実で研究助成金をもらう「戦術」があったりするものだ。したがって、もちろんだが本書で丁寧に扱われているからといって傾聴に値する主張であるかどうかは、具体的にジャックスの議論を僕自身も丁寧に眺めてみて吟味してみる必要がある。ただ、残念ながらジャックスの本はアマゾンでも古本でしか流通していないため、なかなか参照するのが難しい。もちろん彼の著作は古本でも手に入らないほど古い翻訳が2冊だけあるのを除けば、全く翻訳されていない。また国内の研究者が学術研究の論説で取り上げているかどうかを確認しても、幸田浩文氏の「エリオット・ジャックスの時間幅概念にみる仕事の精神的過程」(1992)や幸田氏の『イギリス経営学説史の探究―グレーシャー計画とブラウン=ジャックス理論』(1994)という著作(恐らく最初の論文は、この本の第8章にあたる)があるくらいで、あとは金井壽宏・高橋潔氏の『組織行動の考え方: ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト』という著作で簡単に言及されているていどの事例しかない。つまりは国内に限って言えば十分に研究されているとは思えないので、オンラインのリソースは当てにできないことが分かる。

その中で、ジャックスの事績について唯一と言えるリソースは requisite.org(Requisite Organization International Institute)で、これはジャックスら自身が作った組織のようだ。しかし、残念ながらジャックスの議論について詳しく紹介されていたり、彼の議論から何か具体的な成果として展開されているわけではなく、クレイナーが『戦略のパラドックス』の注釈で参照している(既に存在しない)詳細な文献表がサポートされているわけでもないため、あまり役には立たない。

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