Scribble at 2022-02-15 15:03:16 Last modified: 2022-02-15 15:21:36

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『アラバマ物語』を紡いだ作家(チャールズ・J・シールズ/著、 野沢佳織/訳、柏書房、2014)

ご紹介するのは2回目になるが、以前に紹介したときの「落書き」は色々と事情があって(いったん)他の落書きとともに保管状態としているため、改めてご紹介しておく。本書は、『アラバマ物語』という小説を書いた(そして、これ一作しか発表しなかった)ハーパー・リーという作家の評伝である。おそらく今後も同じ分量と質の評伝は現れないだろうというくらいの量と質を兼ね備えた、資料としても評伝作品としても優れた一冊だと思う。はっきり言えば、仮に英語の文章を読める人であっても、英語で書かれた細かい資料をあれこれと探すよりも、翻訳された本書を1冊だけ読む方がいいとすら言える。

実際、英語圏ですら『アラバマ物語』はたいてい中学か高校の課題図書とか教材として扱われているので、大人が読んで議論に値する評論は多くない。そして南部の価値観や人種差別といった内容にかかわる、社会的なインパクトについてのジャーナリスティックな扱いとか、あるいは一部の州で禁書になったりしている事情などについても、思ったよりリソースがない。よって、アメリカでも大人がわざわざ議論するような文学作品とは見做されていないと思う。よくある読書サークルで指定図書に選ばれる場合でも、たいていはノスタルジックな動機だ。

もちろん、他の話題についても同じことだが、日本国内では更に事情は酷いし偏っているし、言及されたり語られている水準も極めて低い。とりわけウェブでお目にかかるページといえば、書籍の商品解説やアフィリエイターの御託を無視したとしても、ほぼ本書をかいつまんで要約しただけのブログ記事や note の落書きなどが大半であり、これから『アラバマ物語』について語っているオンラインのリソースを探そうというアメリカ文学の学生さんに強く言っておくが、卒論の参考になる文章なんて何一つ存在しないとだけ断言しておく(本書の要約と感想文を「卒論」として提出するつもりのクズ学生なら、参考になるブログ記事がいっぱいあるよ! うれしいね、インターネット)。

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