Scribble at 2020-08-19 19:44:11 Last modified: 2020-08-19 20:11:39

ここ数年はすっかりアマゾンで古書を買うことが多くなり、古書店に足を運ぶ機会は減っている。というか、そもそも古書店が無くなってきていて、行くところが減っているのだから当たり前だ。20年くらい前であれば、難波の大阪球場が(建築物としては)残っていて、その下に古書店街があったものだった。自宅の周辺からも古書店が次々と無くなっている。いまでは、船場センタービルの槇尾古書店が最も行く回数の多い古書店となり、それ以外では近くに行ったときにだけ店を覗くことがあるていどだと(つまり年に一度も行かない)、天満橋の花月書房、鶴橋の古書楽人館、日本橋の宮本書店、谷六の厚生書店、天神橋筋の天牛書店(いちどは緑地公園の江坂店にも行ったことがある)、大阪駅前第3ビルの地下にある数店舗、そして心斎橋の BOOK OFF くらいのものだ。ちなみに、実は梅田の「阪急古書のまち」は中高生時代に考古学の本を買いに行って値段が高いという印象が残っているためか、殆ど行ったことがない。最近では、古書を求める業者と言えば、買取王子、浅見書店、もったいない本舗、バリューブックス、ブックスドリームといった大手の仲介業者だ。

ただし、それらの中には「つなぐ書店」という福岡の事業者があり、ちらしによれば偏った本でも買い取ってくれるという。果たして哲学や数学の専門書どころか洋書なんて引き受けてくれるのかどうかは分からないが、特に洋書の専門書だと大学の近くにある古書店ですら引き取ってくれない店があるくらいなので、回収業者にこちらからお金を払って引き取ってもらうくらいなら、この事業者に寄付する方が良いと思う。そして、いま書いたように、この事業者へ書籍を送る場合は買い取ってもらうのではなく寄付するのである。もう一度だけ繰り返しておくが、哲学の洋書なんて買い取ってくれる古書店は殆どないのだ。そうであれば、見ず知らずの学生(もちろん僕が死んだあとに科学哲学を志す誰かも含めて)にでも引き取ってもらう方が、廃品扱いとして薬剤で溶かされてしまうよりもいい。僕自身が書いたものは別にどうなろうと知ったことではないにせよ、僕が買って所持している大量の本は僕が選んだものなので、科学哲学を志す学生であれば一読して損はしない水準のものばかりだろうとは信ずる。

そういうわけなので、すぐにというわけではないにせよ、時期なり条件が揃えば多くの本は寄付するつもりだ。どのみち、自宅にあるこれらの本を仮に売れたとしても、恐らくは1,000冊で10万円にもならない筈である。驚く人はいるかもしれないが、買う人の当てがない古書なんて、しょせん1万円で購入した研究書でも100円くらいでしか買い取ってはもらえないものである。もちろん、その頃に10万円でも欲しいという厳しい生活になればともかく、幸いにそうでない余生であれば、寄付して事業の足しにしてもらうのに加えて、もっと有能な・・・かどうかは知らないが、哲学を志す学生の手に渡る方がいい。

事情をご存じない方であれば、大学や地域の図書館に寄贈すればどうかと思うだろう。しかし、これは僕が知る限りでは《最悪の選択》だ。恩師が科研費で購入した書籍を大学に寄贈した例を知っているが、わずか数年で学生に「好きなものを持っていけ」とばら撒かれたりする場合があるし、あるいはこっそり、つまり大学に所属している教員が知らない間に除籍処分となって古書店に渡ったり、酷い場合は廃品処分となることもある。特に国公立や巨大な大学の事務方というのは、本当になんでもかんでも研究者や教員の知らないところで勝手に決めて実行してしまう。ウェブ・コンテンツの制作に携わっている立場としては、そういう実例を他の事案においても山ほど知っているので、僕はそういう官僚的な実態をもつ大学の図書館は「アーカイブ」の施設としては全く信用していない。また、地域の図書館については誰に断るでもなく書籍を処分できるので、大阪市の図書館でも恣意的なタイミングで周辺住民に勝手に除籍した本をばらまいたり、出入りの事業者に売り払っているというから、似たようなものである。

そういう事実からして、資産としての情報なり知見を保護したり維持して多くの世代に継承するには、皮肉なことに Google Books や Archive.org のような事業者の活動の方がマシではないのかと言いうる段階に入っているように思う。行政には、もうアーカイブとか公共の利益を支える力がないとすら言いうるかもしれない。そして、それは我々の納める税金が少ないせいでもなければ、維新のデタラメな「民間の知恵」とやらのせいでもなんでもないのだ。そういう「放出」を求めて雛鳥のように口を広げる、われわれバカな国民のせいなのである。

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