Scribble at 2024-05-23 09:50:43 Last modified: 2024-05-23 09:57:09
まともな会社の大半は、従業員と労働契約書を取り交わすだけではなく、NDA のような文書だとか、当社のようにプライバシーマークの認定事業者だったら個人情報の取り扱いに関する覚書を新入社員と交わしたりするものだ。そして、NDA や労働契約書には、競業忌避、つまり同じ業種で競合になる企業の仕事を副業で請け負ってはいけないという項目がある。ただし退職した後については、もちろん憲法で保障された職業選択の自由という大原則があるので、退職した社員が競合の会社へ転職しようと、そんなことを私企業の契約で禁止しても(心理的にはともかく)法的には無効である。また、不正競争防止法という観点から営業秘密を守るために退職後も牽制する必要があるなどと言う人もいるけれど、不正競争防止法で禁じられている行為は、そもそも NDA に書いていようといまいと営業秘密を漏らせば違法なのだから書く必要はないのである。せいぜい、入社時や退職時に人事が説明すればいいだけだ。
さて、このところ OpenAI についての内情が色々と出てきていて、実はアルトマンを追い出そうとした旧取締役会は正しかったのではあるまいかと考え直す人が増えてきているように思う。そして、あの時に「AI 業界のスター経営者 vs. 悪者の役員会」という偽の対立を捏造した犯人が誰だったのかという話題も出始めている。でも、その当時の役員会のメンバーは調べようと思えば簡単に分かったはずであり、そして誰が役員会に入っていたかが分かれば、その中には AI の最先端の研究者や技術者がいたことは明白だ。となると、あの当時、9割の社員がアルトマンの復帰を求めてマイクロソフトへ移籍するとまで宣言したとか、実は何の証拠もないことを Hacker News などで喋っていた連中というのは、アルトマンがもともと Hacker News の運営母体である YCombinator の社長であったという経歴に関わっていたのではないかという印象も持ってしまう。こうなると、僕も長らく信頼して利用している Hacker News というソーシャル・ブックマークについても、一定の話題を upvoting するような仕掛けを使ってユーザの関心を誘導している連中あるいはシステムがあるという陰謀論みたいなものまで出てくるのも当然だろう。
もちろん、僕はかつて WOT というウェブサイトの reputation サービスについて批判的な論説を書いたことがあるので、こういうオンライン投票の仕組みを使った reputation というものには、運営母体のビジネスという脈絡から言って避けがたいリスクがあると思っているので、Hacker News についても手放しで称賛して利用しているわけではなく、少なくとも upvoting の数だけでスクリーニングして話題を拾うなんてことはしていないわけである(Hacker News のフロント・エンドとしてリリースされているアプリなどには、upvoting の数でリストに表示する記事を足切りするような機能を持つものが多い)。でも、そもそもリストに掲載されている時点で一定のバイアスがかかっているとなると(これは、統計学では「系統的誤差」として学部生ですら知ってるリスクだ)、なかなか客観的なスタンスを維持するのは難しい。とは言え、Hacker News だけではなく、Slashdot や Reddit など競合もあるわけだし、そもそもにおいて他人の選ぶ話題からだけ自分の関心事を選ぶなんていう態度そのものにリスクがあるのだとわかっていれば(それが分かってなくて哲学者を自称するほど、俺は未熟ではない)、或るていどのリスク対策にはなるだろう。