Scribble at 2024-01-19 16:13:29 Last modified: unmodified

小学生の頃に購入した考古学の本は大半を売り払ってしまったのだが、実家には何十冊かが残っていて、その中には『考古学ゼミナール』(山川出版社)や『日本考古学を学ぶ (1) ~ (3)』(有斐閣)や『日本の考古学 I~VII』(河出書房新社)といった、おおむね古典的な業績と見做されている著作が含まれるのは幸いだった。いま、山畑古墳群のサイトを制作するための準備として、これらの著作を読み進めてノートを取り直しているのだが、昨今は「歴女」向けの散策ガイドまがいの本や、頭の弱いサラリーマン向けに日本史の「謎」や「真実」を語る手軽で愚かな新書ばかりが出ている中にあって、もう半世紀以上は昔に出た本でも読む価値があると思わせるものがあるのは、愉快でもあり、しかし残念でもある。できれば、これから日本の歴史や考古学を真面目に学ぼうとする生徒や学生の諸君は、ぜひとも書店ではなく図書館へ足を向けて、これら半世紀前の本から読むことをお勧めする。それら「謎」や「真実」が、バカや素人の妄想であることが分かるだけでなく、いかに半世紀が経過しても学術研究の成果を堅実に積み上げることが難しいかが分かるだろう。そして、それゆえに(圧倒されたりたじろぐのは仕方ないとしても)自分も何かができるという意欲を抱いてもらいたいと思う。正直、大半の学術研究分野に「天才」なんていらないのであって、多くの分野は凡庸であろうと着実に手を動かす人間が圧倒的に不足している。その代表が考古学であり、そしておそらくは(ふだんはバカにしてはいるが)社会学のような分野であろう。

余談だが、僕は、何も岸くんのような人々のやっていること(あれやこれやの平凡で些末な記述の積み上げ)を無意味だと言っているわけではなく、あのように凡人のインタビューを掲載する大部の本が、東京の繊細で善良な(しかし平均して福島や山形の人たちよりも圧倒的に裕福な)人々を対象にするよりも先に、福島とかアイヌとか山口とかの人々を対象にして出版できないのはどうしてなのかということこそ、日本の社会学者として考えて行動するべきではないのかと思うだけだ。東京や大阪で売れたら、他の地域でも出してくれるかもしれないという期待があって、敢えて「売れ線」から始めるという目論見はあるのかもしれないが、日本の出版社なんて東京と大阪と沖縄で売れたら、それで終わりだろう。そして、そこで終わるということ自体が、多くの人々にいらぬメッセージを発してしまうのだという想像力を欠いて社会や出版に携わっているのであれば、それはもう僕にとっては社会学者のやることではないなと思うだけだ。そして、まったく同じことを僕は哲学や科学哲学のプロパーにも抱いている。なにも社会学だけを責めたいわけではない。なんにせよ、本当のところ哲学者として何度も語るほどの価値もない話なんてどうでもいい。

さて、『日本の考古学 IV 古墳時代(上)』の冒頭にある近藤義郎氏の文章を読みながら、改めて近藤氏の事績を追ってみると、すぐ分かるように岡山大学で教員となってから亡くなるまで岡山の埋蔵文化財の研究や歴史教育に大きな足跡を残しただけではなく、いまで言うところの public archaeology に繋がるような活動もされていたことが分かる。このあたりは、歴史的な制約とか時流という事情もあって、日本共産党とのかかわりという別の点でも色々と調べられるし言えることはあるのだが、ひとまずそれはいい。そういうイデオロギーや社会思想という脈絡を除外しても、近藤氏が関わった活動には、もっと着目して良い成果が多くあるだろうと思う。その最も有名な事例が、月の輪古墳と呼ばれる遺跡の調査だ。学術研究者だけでなく地元の人々も一緒になって発掘や史料の整理や測量、あるいはそれらの理解と解釈、そして史跡や文化財としての活用(もちろん処分という選択があってもよい)などに取り組んだ事例として広く知られることになったが、いまでは考古学のプロパーでも知らない人がいるのではないかと思える。ましてや、日本の歴史ファンと称する人々の多くは、実際には浅薄なナショナリストや復古主義者が古墳おたくの皮を被っているだけだったりするので、少しでも「アカ」の匂いを感じたら近寄らない。そして、そういう埋蔵文化財にかかわる人たちの業績には関心をもたずに、やれ何箇所の古墳を見ただの、何箇所の博物館へ行っただのという、コレクターまがいの自慢話だけをブログへ書き綴る連中ばかりが増えることになる。でも、そんなのが何億人いようと、埋蔵文化財なんて実は一つも適正に保存されないし研究もされない。自分たちが何をどれだけ知っているなどという話をするだけではなく、関心がない他人にも納得したり関心をもってもらうような努力をしない限り、やがては市民自ら文化財を打ち壊すようなことを平気でやるのだ。

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