Scribble at 2023-12-26 16:47:20 Last modified: 2023-12-27 12:57:46

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Amazon Web Services(AWS)の量子ハードウェア責任者であるオスカー・ペインター氏は「現状、量子コンピューター業界には途方もない数の誇大広告が存在しています。そのため、開発が楽観視されているものと非現実的なものを選別することが難しくなっています」と語りました。

「量子コンピューターの性能は誇張されており実用化はまだまだ遠い」と専門家が指摘

これは PHILSCI.INFO でも、あたりまえだが科学哲学者でもありネット・ベンチャーの最高技術者としてもあからさまなポジション・トークとして書いている話だが、ブロックチェイン、量子コンピュータ、それからディープラーニング(生成AI)という、ここ10年くらいのあいだにマスコミや IT 業界でホットな話題となってきた技術は、もちろん理論や技術として一定の進展があったという事実の上で語られており、決して根も葉もない噂話のようなものではない。

でも、マスコミで語られていたり、あるいは夥しい数のブログや自称メディアで書かれていることの大半は、素人の妄想だったり、生半可な自称理系どもの錯覚や浅薄な理解にもとづくデタラメな想像だったり、あるいは特定業種による意図的なミスリード(程度の低いセミナーとか講習会とか、あるいは投資関連の詐欺も含めて)だったりする。しかし現実には、ブロックチェインを応用して真に堅牢な金融システムや選挙システムが確立された事例はゼロだし、量子コンピュータで何かまともな成果が出たなんて実例もゼロだし、ディープラーニングで癌の特効薬を見つけるなんて話も既に10年近くが経過しているけれど、実用化の見込みは殆どない(どこの国の医療行政も治療の補助手段として承認していない)。

つまり、これらの技術で達成されるなどと宣伝されていることがらのほぼ全ては、宣伝が始まってから5年や10年が経過しても何の進展もなかったわけである。そして、上のような記事を読めば、あと何年かが経過しても似たような状況だろうと思う。ましてや、レイ・カーツワイルやピーター・ティールやマーク・アンドリーセンのような人々が大宣伝してきた、「シンギュラリティで不老不死」なんてのは世迷言であり、はっきり言えばテクノロジーの短期的な進展を過大評価している人々の新興宗教みたいなものである。もちろん、技術もなく知識もない状況で生きる方が幸せだとか、あるいは技術の進展とは別の基準として「心の豊かさ」があるみたいな、博報堂や都内の左翼崩れが大好きなインチキ思想など論外ではある。しかし、だからといってリバタリアンが大好きな最近の流行しそうである加速主義的な見境のない投資だとか技術の過大評価もまた、愚かなことであろう。

そして、科学哲学者として明言させていただくと、かようなバカ話が大量に出回る元凶は、実は生半可に勉強した素人のせいではなく、未熟なレベルの学位と素養しかない自称理系たちのせいである。企業でデータ・サイエンスやってますとか、東大でコンピュータ・サイエンスを勉強したとか、金融屋で経済アナリストやってますとか、そういう何の証拠もないプロフィールを並べてブログを書いているような連中だ。本来、こうした技術を正確に理解して適正に評価するには、もちろん同じ分野での最低限の知識や研究経歴が必要である。つまりは、最低でも博士号は必要なのだ。ところが、日本に限らずデタラメな話を書いてアクセス稼ぎとかにうつつを抜かしているのは、素人ではなく理学系の学部や修士を出た人々なのである。本来なら、自分たちが別の分野、あるいは同じ分野でも修士ていどの学識しか無いなら、異なる分野とか専門的な業績について正確な理解をもとに評価できるものではないと知っていなくてはいけないはずだが、残念ながら学部や修士ていどの学歴だと、そこまでのスタンスを持てるだけの、つまりは研究者としてのスタンスは身につかないわけである。それは、日本のように修士号を持っていても中国の大学なら高校生レベルなどと言われるような国だけに限らず、アメリカでも修士なんて学術研究の世界では殆ど素人と同じである。だが、こういう素人同然の連中が、理学系の学部を出たとか修士をもってるていどで、他の分野について、あるいは同じ分野でも博士ていどの素養が必要な成果について、分かったようなふりをして適当なことを書いているのが実情だ。

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