Scribble at 2025-06-18 18:24:32 Last modified: 2025-06-20 08:59:54
ロボットアニメ界に大きな影響を与えた「機動戦士ガンダム」。戦争のリアルな世界観を取り入れるなどして、今も幅広い世代から人気を集めています。
時節柄、日本のマスコミでは6月から8月にかけて戦争(太平洋戦争)に関する特集記事や特集番組が増える。僕も何年か前には B 級戦犯についての本を何冊か読んで、占領地の人々を診察したり手術したり投薬して救っていた軍医が、戦後の法廷においては虐殺の首謀者だったと現地人たちから嘘の告発を受けて死刑になった事例などを山ほど読んでみて、結局のところ戦争の犠牲者とは言えしたたかな人たちもいるだろうし、そういう偽証を行った人々のなかには戦後の現地で色々な圧力にさらされた末に偽証した場合だってあったのだろうと複雑な心境になった。もちろん、偽証で投獄されたり処刑された多くの B 級戦犯は、そういう後から分かる情報だけを見れば「気の毒」に思えるのは確かだが、しかし本当にそうなのかどうかはわからない。偽証で投獄された軍医にしても、現地人の治療をしながら裏で別のなにか愚劣で悪どいことをやっていた可能性だってあろう。要するに一部の人々が書いている著作物だけで判断はできないし、最新の情報が全ての解釈や理解をオーバーライドできるわけでもないのであって、歴史的な「事実」とか「客観性」というものは、迂闊に判断できない、非常に難しいことがらである。
したがって、戦争に限らず歴史的な出来事の評価は教科書的、あるいはイデオロギーにもとづいて書いたり伝えたりしているほど、単純でもなければ一面的でもないのである。もちろん「せっかく占領下でも進んだ医療で治療してやったのに、なんという恩知らずなやつらだ。ODA なんて止めちまえ」などとネトウヨのように怒ったりする人は多いわけだが、占領されていた側の彼らにしてみれば、傷や病気を治してもらったところで、同じ日本軍に殺された人々は決して生き返らないわけである。軍医の医療行為など、知人や親族を殺された人たちにとっては償いにすらなっていないわけで、ましてや善行であるなどととは夢にも思っていないかもしれない。戦後になって現地の人々が掌を返したように多くの軍人を B 級戦犯として偽告発したり偽証したという悲惨な事実が積み重なるほど、戦争というものは「戦争」などと一言で片付けたり分かったつもりになるような事柄ではないと、改めて思い知らされるのであった。
なので、インチキ右翼の人々がこうの史代氏の漫画を喜んで読むのも分かるし、ガラクタ左翼の人々が色々なシチュエーションで描かれるゲリラやレジスタンスのストーリーを喜んで楽しむのも分かるし、デタラメなセンチメンタリストたちが「本当はみんな戦争を嫌がっていた」などと同調圧力に負ける善良な人々というファンタジーを描く太平洋戦争のドラマをなんども制作するのだって分かる。でも、結局それらは自分が知っているにすぎないことを当時の実像だの状況だのと極大化・肥大化させているだけのことだ。錯覚ではないにしても、それを「戦争」と一語で言おうとするのは、悪質である。なので、僕はこうの史代氏の漫画は二度と読む気がしない。確かに登場人物が「戦争」という言葉でなにか言いしれない、簡単に特定できない何かを言わんとしているのは分かるが、それはこうの史代氏というよりも当時の、簡単に言ってしまうが凡人の凡庸さゆえの自明な状況を表しているにすぎないのである。凡人は、凡庸さゆえに自分たちも(戦前は女性に参政権がなかったとはいえ)「戦争」を続ける原動力になったという自覚がないわけで、一方的に災難を被った悲劇の主人公という凡人ゆえの短絡は、仕方のないこととはいえ、そんなストーリーを何億作品と描いたりアニメや映画やテレビ・ドラマにしたところで、結局のところそれは「戦争」の後の話でしかなく、「戦争」を回避したり止めさせる力にはならないのである。
更に言えば、戦前から戦後にいたる情報を「すべて」見聞きすれば、偏りのない「全体像」が分かるなどというのは、考古学を学んだ人間から言えば致命的で悪質な錯覚である。或る出来事は、そもそも「或る出来事」として理想的な基準から individualized されるための必要十分な条件などないのであって、常に不十分で偏った観念としてしか人の話題や想像・記録・観察・経験の対象にならないわけである。よって、そもそもそういうものでしかない出来事について、考えうる「すべて」の観点とか「すべての」分析基準などというものすら不可能ではあるが、仮にそんなものがあるとしてすら、不完全な対象について、せいぜい満足できるていどの分析を加えるという結論しか手にすることができないのだ。
なお、富野氏あるいはガンダムの話を期待していた方には申し訳ないが、彼がインタビューで語っているのは、ガンダムに「リアルな戦争」を読むこむなどというオタク話ではないのであって、そんなことを話題にすれば監督にぶん殴られると思うね。