Scribble at 2024-08-10 22:38:10 Last modified: 2024-08-11 15:38:13

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地震の予測というものは原理的にも技術的にも難しくて、数日前に書いた通り、統計と確率のアイデアを混在させて(というか、そうせざるを得ない場合もあろうが)説明する専門家がいるために多くの人を困惑させる。そして、地震の予測にかかわる説明というだけではなく、その予測そのものが難しい一つの理由というのは、簡単な図にすると上のようになる。もちろん、他にも観測できる地点が少ないとか予算に限りがあるとか色々な理由はある。

ここでは二つの状況を想定している。青い線は地表面を表していて、つまり上は地上で目に見えている範囲を表し、下は地下で目に見えていない範囲を表す。そして、地上の様子だけに着目すると、ここでは左から迫り出している崖(茶色)の上に板状の岩(ペールピンク)があり、岩がどんどん崖から突き出していくような力が働いているとしよう。これは、板状の岩の長さや材質を調べることによって、どれくらい崖から突き出ると岩が崖から落下したり、あるいは崖から迫り出した部分の重量だけで岩が割れてしまうかという予測ができる。これは、岩の長さや材質が(完全にではなくとも)観察しやすいため、精度の高い予測ができる。

だが、地下に目を転じると、濃い灰色で表したのが硬い岩盤だとして、そこへ右側から板状の岩(もっと薄い灰色)が押されているとする。ちょうど、プレートどうしの押し合いと似たような状況を考えてもよい。この場合は、そもそも岩の長さや岩の材質や密度などが、地表からの大まかな測定でしかわからない。また、途中に別の地層が挟まっていると測定の影響を受けるだろうし、そもそも測定できる深さには限度がある。そのため、地表で岩の長さや材質を測ったり観察することに比べると、誤差や不明の点が非常に多いわけである。それでも、理論的に考えて一定の長さで一定の密度や材質のプレートがあろうと想定して、その岩なりプレートが右から押し付けられるに連れて、どれくらい押されたら限界を超えて割れたり、あるいは下へずり下がって、大きな地震を引き起こすのかという予測をしなくてはならない。

この対比を見ても分かることだが、一定の密度の岩が一定の圧力を加えられたときに、どれくらいの時間で摩擦や材質の限界に達して大きく動くのかという議論は、地下の条件が不正確にしか分かっていない以上、既に測定されている幾つかの箇所から得たデータによって、あるていど地下の様子をモデルとして見込みを立てながら予想する他にない。そして、その予想の正しさを補正するために、歴史的な記録を使っている。こういうわけで、統計と確率を使っているとは言っても、一方の確率は予測のための条件が揃わないという制約があるし、統計についても過去に起きたあらゆる地震の記録を人類が手にしているわけではないのだから、これも手持ちの統計データそのものが大局的なトレンドの一部でしかないという可能性を残しているわけである。これは、高校数学で数列を学んだときにクイズのようなことをした覚えがある人もいると思うが、「1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, ...という数列があるとき、第10項を答えなさい」という問題があるとすると、これを「10」と答えるのは間違いである(数学の授業で、数列の問題としてこんな問い方はしないはずである)。なぜなら、これは「1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7,...」という循環した数列だからかもしれないからだ。いや、もっと言えば、これをさらに続けると、実は「1, 2, 3, 4, 5, 6, 7」を7回だけ続けると、次に「0, 0, 0, 1, 1, 1, ...」という具体に続くような大きなトレンドがあるのかもしれない。要するに、一般項や漸化式を無視して数列を語ることはできない。グラフや項の値の変化を見て取れる範囲から、たとえば数値計算の補間法などを使って近似値を出せるかもしれないが、それは与件の範囲だけで成立する議論でしかない。

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