Scribble at 2022-12-18 14:36:30 Last modified: 2022-12-19 01:09:10

いまの場所に住み始めて20年が経とうとしている。他の多くの人と同じように、僕らも周辺の住民を殆ど知らない。かろうじて下の階に住んでいる管理人さんとは挨拶を交わしたり、ときどきは贈り物をやりとりするといった関係があるけれど、隣の部屋の住人は廊下で挨拶を交わすていどだし、家の外に出ると周辺に顔見知りは全くいない。

そして、ここ最近は周辺に新しくマンションが続々と建設されていて、昔から住んでいる人々に加えて他の地域から転居してくる住人も急激に数が増えている。まさに、一山いくらというだけであって、コミュニティの体を為していない。現に、僕の父が住んでいる大阪市内の他の地区では、自治会どころか、いまだに「隣組」なんていう自主的な組織すら残っているけれど、僕らが住んでいる地区ではマンションの住人に近隣の公園の掃除当番を相談するなんて事例は全くない。

もちろん、良い悪いの話は別である。コミュニティがなくなるのは良くないと言って、地区の中で出会う人がどこの誰であるか分かっている方がいいなどと言う人がいても、今度は「プライバシー」だの何のと言い始める人は出てくるだろうからだ。

ただ、企業の Chief Privacy Officer を拝命している実務家として一つだけ言わせてもらうと、たいていの人はプライバシーと個人情報を取り違えているし、プライバシーや個人情報について、それぞれデタラメにしか理解していない。もともとデタラメに理解しているプライバシーと個人情報について、それらを更に混同していたり取り違えていたりするのだから、混乱が増す。そして、これも強調しておきたいが、自分自身のプライバシーについてすら、たいていの人は理解していない。なぜなら、プライバシーというものは、結局のところ自分自身で決めるものではないからである。

昔から頻繁に言われていることなのだが、プライバシーとは自分が何を隠したいかという判断に依存する主観的なものだと解説する人がいる。これは、もちろん個人主義という思想があっての議論であり、憲法でプライバシーを保証するにあたって、それぞれ国民が個人として権利をもっているということから保障の対象になってしかるべきだという「建て付け」になる。しかし、個人主義は個人の身勝手や我儘を正当化する理屈ではないのだから、例えば個人情報を勝手にプライバシーだと言って国に保護しろと要求する権利なんてないのである。よって、あなたがどこの誰であるかという事実を他人に知られたくない(プライバシーだと錯覚している)からといって、これを誰にも知られないようにしたいと言っても、それは不可能である。そもそも、あなたが誰であるかという事実を厳密な意味で誰にも知られないようにするなら、あなたは日本国籍を持てない(戸籍を作れない)。そして、もし「それとこれとは話が違う」と言うなら、それを「違う」とあなたが勝手に決める資格など憲法では保障されていないというだけのことなのである。

もし、何がプライバシーであるかを本当に自分で勝手に(まさしく法律と関係なく)決められるというなら、それを守るのはあなた自身でしかありえない。よって、そもそも憲法で「プライバシーの侵害」などと言って国に法律でプライバシーを保障してもらうことなど求めてはいけないのである。

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