Scribble at 2023-11-29 19:28:40 Last modified: 2023-11-29 19:40:30

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Language and Poverty

貧困にも幾つかのタイプというか側面があり、その一つが「アイデンティティの貧困」であるという。自分自身の民族なり部族が伝えて共有してきた言語や方言が失われることは、自分自身のアイデンティティに価値がないという印象をもたらすというわけである。昨今、生活保護の受給者を「なまぽ」と呼んでるようなネトウヨと一緒にアイヌの人々を揶揄している、愚劣なインチキ右翼が自民党の国政に参加しているという由々しき事態があって、かような陣笠風情が民族や国を語ることすら国辱に類する恥ずべき状況だと思っているのだが(こういう人物に投票した人間は恥を知るといい)、いまやアイヌ語は消滅の危機にあって、こんな連中が御託を SNS でバラ撒くまでもなく、アイヌのアイデンティティは弱くなる一方である。ただ、そういう状況について彼ら自身が個人として守るの守らないのを判断したり公言したりする必要や責任があるのかどうかは、定かではないというところに、こういう事案の難しさがある。仮に、日本語という言語を読み書きできる人間が僕だけしかいなくなったとして、さて僕が日本語をどうやってか「保存」したり「継承」する責任があるかと言えば、そんなものは個人としてはないと思う。僕は国や地域や民族なんていう矮小なスケールでものを見てはいない、いわば哲学的なスケールでの保守思想を支持しているので、あらゆる文化は衰退したり普及したりを繰り返し、新しく起きるものもあれば消滅するものもあるということを、なかば当然であり必然であり自然だと思っているからだ。

もちろん、人権侵害や文化的な汚染に相当するような愚行なり犯罪は避けたり処断するべきである。したがって、ご案内のとおりのバカ議員が SNS で特定の集団や民族や国を侮蔑するといったことは、表現でもなければ意見でもない、言語を使った犯罪として扱わなければいけないと思う。単純にヘイト・スピーチだろ、どう考えても。

で、上記の論説では言語を使う TPO を選択したり、特定の場で自分たちの言語を使えるようにするといった権利を保障することが一つの対策になると言っている。たとえば、いま大阪府でも小学校で授業するときに教師が関西弁を使うと PTA から苦情があったりするというが、そのうち関西弁は学校では禁止されることになるのだろうか。宅のマコトは東大を出て分析哲学者としてゾンビや色盲の女を扱う本を出版して世界に羽ばたく運命にあるざますの。大阪弁などという下賤な方言など使われては困りますわ、とか。漫才ブームで関西弁を話す芸人が全国ネットの番組に数多く登場した頃から、逆に大阪ではこの手のインチキな標準語を喋るやつが増えてきて、いまではまともな大阪弁も標準語もどちらも話せないという「クズ・バイリンガル」がたくさんいる(これは、もちろん帰国子女の大半が、実は日本語も英語も大人のレベルでまともに扱えないクズ・バイリンガルなのと同じことだ。発音はともかく、中身は「ガキの日本語+ガキの英語」でしかない)。なお、かく言う僕も目黒区の生まれで大阪弁嫌いの母親に山の手言葉を教えられたのだが、実際には大阪弁も使っていたので、言葉については他人をどうこう言えたものでもないのだろう。

ちなみに、この記事は Hacker News で紹介されていて、この記事が掲載されている "SIL" というサイトの運営団体ってなんだろうと思って "About us" を見たのだが、"SIL's core contribution areas are Bible translation, literacy, education, development, linguistic research and language tools." とかスローガンを連呼するだけで "SIL" が何の略なのかすらわかりにくい。実際には "summer institute of linguistics" というから、必ずしも予断をもたせるような名称ではないのだけれど、詳しく見てゆくと、もともとは聖書の翻訳を手掛ける組織だったというから、要するにクリスチャンの団体なわけである。クリスチャンが、自分たちがクリスチャンであることをここまで遠回しにしか表現しないなんて珍しいが、恐らく現在は宗教色を薄めて活動したいという思惑があるのだろう。

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