Scribble at 2020-01-25 10:06:46 Last modified: 2022-09-30 17:37:01

高校時代は五つ以上のクラブや自治会執行部などに所属していた。その一つが文藝部で、検索してみるといまは同好会に格下げとなっているようだが、当時は国語研究室を部室としていた正式な文化系クラブの一つとして、6名くらいの部員を擁していた。とはいえ、僕らが二年生になった頃には親友二人と合わせて3名の規模になってしまい、新入生も入らなかったから、恐らく僕らが卒業した直後に一度は同好会どころか消失してしまったのだろうとは思う。

さて、当時は学年度末に近くなると活動報告の一つとして『Noir』という冊子をガリ版で作って全学と教員に配っていたし、毎週のように『文藝部新聞』なるものも配っていた。そういう活動の中で、いちおう僕も数多くの掛け持ちをしながら、どういう経緯でかは忘れたが、読む速さとストーリーの進行がシンクロする手法で小説を書こうと思ったのであった。そういえば、芥川龍之介の全ての作品を1冊にまとめた『ザ・龍之介』という本を読んで、何か感化されたからだったような気もする。

でも、そういう手法で作品が完成することはなかった。僕の記憶によれば、それを午前に思いついて、午後にはバカげたアイデアだとして投げ捨てたからである。

午前中は、こんな風に考えていた。

「右手を眺めている。」

この一節で、「みぎてをながめている」と読み進めるのに費やした時間だけ、ストーリーも同じ時間が経過する。そして、

「特に問題はなさそうだと、気を取り直して黒板へ向き直った。」

実際には、この登場人物の行動に費やした時間は黒板へ向き直っただけのあいだしかかかっていないので、「特に問題はなさそうだ」と感じたり判断した描写の一節を読み進めるのに費やした時間は、どうやって回収したらいいのか・・・しかし、こんなことを無理に調整するのはばかげているのではないか。そうして悩んでいるうちに、午後になると、読む速さとストーリーの進行がシンクロするという形式的な要件だけが重要なのであれば、読む速さとストーリーの進行する速さを同期する最も簡単で確実な方法は、なんのことはない、全篇を主人公のモノローグにすればいいのだとわかって、すぐに構想を投げ捨ててしまったのだった。

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