Scribble at 2021-03-31 16:07:47 Last modified: unmodified

さきほど GMO ペパボが運営する「Jugem」というブログ・ホスティング・サービスの利用者に向けた、運営事業者からのメールが配信された。なんでも、「Jugem」の事業を他社へ譲渡するという。こういう事例の大多数は引き取り手の事業者が名前も聞いたことすらない中小企業だったりするわけだが、いまや GMO 一家の中にあるペパボにとっては些末な売上でも、中小零細にとってはそれなりに意味のある数字ではあろうから、一定の売上があれば引き取る方にとっても損はない・・・というのが素人考えで、ペーパーボーイは言わば素人のネット・ユーザにサービスを低価格で提供するための色々なノウハウを蓄積しているわけで、同等の技術者なり、あるいは同等の運用スキルをもつ人材がいなければ、結局は運用コストが嵩んで手に負えなくなる。こうした事業譲渡で大半の有名サービスが消えていくのは、そういうことも事情の一つである。

それはそうと、Jugem は有償の Pro 版もあるが、無償のブログ・ホスティングもあったし、ペパボが提供するレンタルサーバの無料オプションとしても使えたのに、これを事業譲渡してしまうということは、それだけブログが個人向けのサービスとしては使われなくなっているということなのだろう。もちろん、僕が当サイトで10年以上前にも書いたとおり、「ブログスフェア」などという下らないマーケティング用語を、僕らの生活範囲を言い表すリアルな言葉として使おうとしていた愚かな人々もいたし、それどころかまともな社会科学の用語として使おうとしていた学者もいたわけだけど、それらが浅薄な態度であることくらい、別に僕らのように哲学をやっていなくても大半の〈大人〉は分かっていたわけである。

ただ、僕にとって少し予想外だったのは、かつて「ブログがメジャーな『表現』手段になる日? 冗談だろ。」という文章で「いまの40代以下の人々がジジイやババアになったら、いまのジジイたちよりもっと使うのかもしれないが」と書いたことが、予想外に当たっていないということだ。正直、10年前の30代が40代になって、あるいは10年前の20代が30代になって、どれくらい IT やオンライン・サービスのリテラシーや習熟度が上がったのだろうかと、そういうスキルがあって当たり前と思われているネット・ベンチャーの部長として周りを見る限りでは、はっきり言って中世の修道士を眺めているような気分になってくる。たぶん、200年くらいが経過しても大半の人々のスキルは同じだろう。「かわさん、プリンタのドライバってどうやって入れるんですか?」「かわさん、iPhone で会社のメールを受信したいんですが」「かわさん、DNS ってなんですか?」

でも、考えてもみれば当たり前だ。YouTube にブラウザでアクセスして映画を観るのに「IT リテラシー」と呼ばれるものなど殆ど必要ない。Mac は OS の UI そのものについても昔から「コンピュータを使っていると意識させない」というデザイン・ポリシーを維持しているし、殆どのサービスをブラウザ上で済ませるようになってくれば、OS の違いなく一律にオンライン・サービス上の使い勝手だけで話が収束してしまうのは当然だ。大半の利用者がボタンを押せる知能さえあれば使えるようになっていて、それでコンテンツを享受していれば済むのだから、それ以上の向上心などなくても当たり前だし、それを誰が責められようか。

ということなので、ブログを運用する意味が消失したという事情に加えて、そういうサービスを使うスキルを持たねばならないという必然性もなくなってきたのだから、ブログのホスティングが事業としてなかなか継続するのは難しいのもわかるし、その是非を語っても大して意味はないだろう。何か世の中に訴えたい、しかも更に効果的な手段やメディアがあるなら、それを選んでしかるべきだ。そこで、まだブログというサービス形態に拘るべき理由となるような〈社会正義〉の理屈など、あるはずがないからである。こういうことは長い年月をかけて山の高所から低所へ一粒の石が転げ落ちるような話であって、是非もくそもないのである。

  1. もっと新しいノート <<
  2. >> もっと古いノート

冒頭に戻る


※ 以下の SNS 共有ボタンは JavaScript を使っておらず、ボタンを押すまでは SNS サイトと全く通信しません。

Twitter Facebook