Scribble at 2024-08-27 21:36:33 Last modified: 2024-08-28 07:52:58
UX には一つの(実は見かけの)ジレンマがあると言われている。しかし、UX を語る人の多くが矮小な自分の経験とか未熟なユーザビリティ・テストなどに頼ってものを書いているので、あまり真面目に議論されていないのが実情だ。特に、殆どの動機や目的が販促という視野狭窄に陥っている日本で UX を語る人々の多くにとっては、自分たちのやっていることを否定されるような気がするからか、自然と避けているのかもしれない。
そのジレンマとは、「ビジターはテキストを読まない」という特性と、「ビジターはテキストを読む」という特性のことだ。これだけでは意味不昧かもしれないので、丁寧に言い換えると、「大多数の初見のビジターは、ウェブ・ページに書かれているナヴィゲーション以外のテキスト情報を読まない」という事実に対して、「そのページに関心をもったビジターは、ウェブ・ページに書かれているテキストを読む」という事実があると言われる。だが、これは冒頭で述べたように見かけのジレンマにすぎない。なぜなら、うまくいけばの話だが、初見でテキストを読もうとしないビジターにウェブ・ページの価値を理解してもらえたら、そのビジターこそがウェブ・ページのテキストを読んでくれる人になるからだ。つまり、これが見かけの上でジレンマに思えるのは、「ビジターはテキストを読まない筈だ」と言うマーケターの UX 議論と、「しっかりページをデザインすればビジターはテキストを読んでくれる筈だ」というライターやエディトリアル・スタッフの UX 議論とが、お互いに対立しているように見えるからだろう。
こういう偽の対立をお互いに錯覚していると、ウェブ・マーケティングの人々はキー・ヴィジュアルなどでのインパクトが大切だと錯覚してテキストを軽視するようなビジュアルをデザイナーに要求するようになるし、逆に「ものづくり根性」よろしく、よいテキストを書けばビジターが読んでくれると錯覚しているライターやエディトリアル・スタッフはタイポグラフィを優先するビジュアルをデザイナーに要求しがちとなる。そうやって、両者を間違った仕方で仲介しようとするデザイナーが選択するのは、奇抜なレイアウトのヘッダー・デザインだったりする。そして、残念ながらそういうのが実は最もビジターの要求や期待を無視して直帰率を劇的に引き上げてしまう悪手なのである。
「コンテンツが王様」だと言われたのは、もはや過去の独りよがりなユーザビリティ議論のレベルであって、2020年代に入った(というか、原理的にはもともとそうだったのだが、僕がつねづねフォームのデザインに関する議論などで疑問を呈してきた、ヤコブ・ニールセンのような部分最適化だけのユーザビリティおたくが、業界における UX への回り道の元凶だと思う)オンライン・コンテンツの情報設計においては、どう考えても王様はビジターである。ビジターがそもそも何をサイトやページに求めているかという予測や想像なくして、広告よろしくインパクトだけで人が興味を持ってくれるとか、吉本芸人や坂道アイドルの写真で人の関心を引き寄せられると思いこんでいるような人は、もはやウェブの広告や営業やデザインには向いていない。また、コンテンツをしっかり作れば見たり読んだり使ってくれるという妄想も通用しないと知るべきである。