Scribble at 2023-05-23 09:29:46 Last modified: 2023-05-23 09:31:54

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「黄金比」になっている図形を取り出しては「美しいですね」とか言う人がいて、他にも矩形の辺の比なんて無限にあるというのに、どうしてその比が美しいのかと説明できた人は、実は古今東西一人としていない。雑に言うと、「黄金比」は 1:1.618... という比率のことであり、ここ最近のマーケティング屋が濫用している「黄金比率」とか「黄金律」とか「黄金法則」などというクズ言葉とは何も関係がない。また、多くの初心者向けで公開されているウェブ・ページや、販売すらされているデザインの本にも、「美しいレイアウト」を作るための大原則であるかのように紹介されているが、そんなことを書いているのは、たいていデザイナーとしても3流で何の業績もない専門学校の教員だったりする(美大や哲学科の教員としてすら同じことを言ってるやつは、単なる無能だから同じように無視してもいい)。

もう15年くらい前に「黄金比という参照枠」という論説を書いて公開していたのだが、いまだにオンラインではインチキな自称デザイナーとか、デザインについても数多くいる、Photoshop や Illustrator の使い方すら知らないコタツ記事を「執筆」なさっておられるライターのお歴々が蛆虫やカラスとおなじくらいいて、熱心に「黄金比は美しい」「黄金比でウェブデザイン」などと言っては、採用されたこともない数々のゴミみたいな自称クリエーティブをご披露なさっているわけである。

さて、そういうバカや無能をブッ叩く論説は再び公開したいと思っているのだけれど、まともなデザイナーや美大や専門学校の教員は、まずこんなバカ話を学生にしたりしないので、それほど危機感は感じていない。それに、「黄金比」を盛んに薦めるデザインの本だとか、あるいは数学・理系コンプレックスに訴える、例の黒魔術の本みたいなシリーズの小さな本だとか、それともごくありふれた数学の通俗書として出版されている本にしても、現実にはぜんぜん売れていないのである。わざわざ本を買ってまで読むほどの熱意や知的探求心などないからこそ、「黄金比」に限らず、無能な素人は手に取り易くて3行で分かるような「法則」とか「秘訣」とかに飛びつくのだ。誰が金を出してまで本なんて買うものか。なので、そんな本がどれほど出ても売れるわけがないから、馬鹿が続々と増える心配はしていない。もともと大半の凡人は、何をしようが僕らプロのデザイナーの足元にも及ばないのだ。そもそも、レイアウトや配置なんてものは納品物としてのデザインにとって 1% くらいの重要性しかない。最も大きな区画についての話だから最も重要で本質的に思えるのは、見かけのことしか考えていない無能の錯覚である。

ということで、もうわざわざわれわれのような哲学者が「黄金比」なんてものを叩き潰すような論説を書くほどの社会的な意義もなかろうと思うのだが、暇潰しにそういうものを書く可能性はある。なにせ、まだHPが15とか20くらいは残っているようにも思えるからだ。こういう愚かな妄想をデザインの世界から放逐・根絶するにはあと僅かなHPをメテオかアルテマでゼロにしなくてはいけないかもしれない。そうしないと、またバカなやつが「黄金比で素敵なデザインにしましょう!」みたいなコタツ記事を量産して、実質的にリジェネを唱えるのと同じ結果になるかもしれない。

とりあえず、ここでもスロウくらいの効果がある魔法は使っておこう。

上の図で黄金比の矩形(左)と、たとえば正方形(右)とを見比べてみると、さて「黄金比は美しい」と言っている人々に、正方形と比べて黄金比の矩形にはどんな美しさがあるのかと尋ねてみることはできるだろう。たぶん、誰も説明できない。もちろん、たいていはバカであり、デザイナーとしても無能だからだが、そういう彼ら自身の欠陥だけが理由なのではない。黄金比というのは、本来は数学的な規則性のことであり、そして「数学的な規則性」なんて無数にあるからだ。美しい比率なんて、黄金比の他にもたくさんあるわけで、とりわけ黄金比だけが無条件に「美しい」と言いうる根拠なんて、認知の問題としても、それから数学の問題としてもありはしないのである。15年前にも書いたように、こういう人たちは黄金比のもつ規則性を理解していて、その規則性に何か美しいと言いうる基準をもっているわけではない。したがって、僕は正方形は整っているように見えるわけだが、もちろん黄金比の矩形「よりも」整っているとか、正方形「も」整っているように見えるとは言えない。僕は、正直なところ黄金比の矩形がどうして「美しい」と言われるのかが、そもそも理解不能だからである。実感としても、バランスがいいとか整ってるとか、ましてや美しいとは思えないのだ。とは言っても、正方形が整っているように見えるのは縦横の辺の長さが同じように見えるからにすぎない。本当は 1:0.9995 かもしれないし、実際に辺の比が 1:1 かどうかなんて知らない。たぶん、「黄金比は美しい」なんて言ってる人間の 99% は、^^\frac{1+\sqrt{5}}{2}^^ の小数展開で小数点以下を8桁分すら覚えてはいまい(1.61803398...)。でも、それはいいのだ。どのみちヒトなんていう不完全で未熟な生物が美しいのどうのと言ってるような認知能力なんて、さほど合理的でもなければ(どういう基準や根拠であれ)「正しい」わけでもないのである。しかし、それだからこそ僕には黄金比の「美しさ」が理解できないわけである。誰か教えてもらいたいくらいなのだが、たぶん教えてもらっても実感として美しいと感じなければ納得はできないだろう。

こう考えてみると、あくまでも見かけの問題にはなるが、僕には正方形が色々な意味で整って見える。黄金比の矩形は縦型にすると、僕には多くのビルと同じように不安定な形にしか見えない。街中を歩いていても、どれほど耐震構造がどうとか構造体の計算ではどうとか言われても、縦の方が長い形というのは、どう見ても不安定にしか見えないのである。確かに、実感として地面に棒を串刺しにしたような状況なら、なかなか棒は倒れないように思えるわけだが、地中に刺した長さよりも地上に出ている長さの方が何倍も長ければ、やはり不安定だと言える。それなら黄金比の矩形を横向きにすればどうだろうか。確かに安定しているように感じるが、それが美しさと同じかと言えばそうでもないだろう。縦型を横型にしたくらいで美しさが変わるなら、そもそも辺の縦横の比の問題ではなかったという話になってしまうからだ。そして、正方形の場合は、当たり前だが横にしても縦にしても同じように見えるので、感じる印象は全く変わらない。そして更に、正方形は45°に傾けてすら図形として単純に整って見える。これに対して、黄金比の矩形は45°に傾けると、ロゴの部品としてなら「いい感じ」に見えなくもないが、単独の図形としては整っているように見えないだろう。

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