Scribble at 2026-10-08 07:52:35 Last modified: 2026-10-08 08:09:49
「とちかん」という言葉は、『白夜行』には「土地鑑」と表記されているのだが、このところは「土地鑑」を「土地勘」と書いたり、それどころか「土地感」と書いたりする人も多くなってきている。報道機関によっては(テレビ朝日、日経新聞など)、「土地勘」の方が優先するべき用字となっているらしい。
「土地鑑」は、もともと「アリバイ」のような警察用語だったものが、推理小説や刑事ドラマで普及した一例のようだ。そして普及する際に、誤字だった「土地勘」という表記の方が使われてしまったらしい。これは、ひとたび「土地鑑」が普及した後に、「土地勘」という誤字を正しい表記であるかのようにオーバーライドする方が困難だからだ。
とは言え、この「土地勘」や「土地感」という言葉そのものは言い得て妙と評してもいい表記であり、必ずしも誤字だ俗字だとあげつらうまでもないと思う。寧ろ「土地鑑」の「鑑」という漢字の物々しさというか大袈裟な見栄えの方に違和感すら覚えるほどだ。ただ、警察用語としては、或る土地や地域を熟知していて、周辺の地理や地形にも詳しく、生まれ育ったり通ったり働いていた場所のように実体験を伴っていることを指しているため、「土地勘」という言葉が単なる方向感覚のような意味で使われる(つまり実体験がなくても方角や場所の見当がつくから、そこへ行けばどうにかなるといった意味合い)のとでは、それなりに意味合いが異なる。
それから、研究者によっては「土地鑑」という警察用語も「とちかん」という口語への当て字だったから、歴史的な経緯で言えば「土地鑑」と「土地勘」のどちらを正しいと言うこともできないとする意見もあるようだ。そして更に、「或る土地に関わりやゆかりのある者」という意味で「土地関」という言葉も犯罪者の隠語としてあったらしい(木村義之『隠語大辞典』)。すると、隠語とか現場で使われる言葉遣いというものは、その多くが実際には文書や記録に文字として表記されることがないため、正確に「土地関」と「土地鑑」のどちらが古いとか、どちらが正しいと決められるとは限らないということになる。たまたま「とちかん」という発音が同じだった別の意味の言葉が、それぞれ字を当てられていったという経緯をもつ可能性だってあるからだ。