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田中良之『古墳時代親族構造の研究―人骨が語る古代社会』(柏書房、ポテンティア叢書、1995)

本書は他の論説で参照されていたので図書館で借りてみたのだが、典型的な日本の人文系の学位論文だ。ちなみに、ご存じない方のために説明しておくと、日本で「論文博士」という種類の博士号を取得すると、学位認定の審査を請求する際に提出した博士論文は学位を授与されたら公表する義務がある。最近はオンラインで PDF を公表する場合もあるが、従来は本書のように書籍として出版する場合もあった。もちろん、学位論文を書籍として出版できる事例の方が珍しく、大半の博士号取得者は自費出版して国立国会図書館に納めることが多い(国立国会図書館に納めたら「公表」したことになる)。

本書のように、人骨の解析という人類学の手法で古墳時代の親族を研究するというアプローチは、独創的で新規性もあるため、出版するだけの値打ちはあると思う。だが、実際に読んでみると、要領を得ない、どこにポイントがあるのかまるで分からない、解析データの羅列を目で追っているような錯覚に陥るほど面倒臭い書籍だった。目次からすると、たいていの読者は個々の古墳についての分析を列挙している第3章から第5章をスルーして、結論部の第6章を読むのかもしれないが、この第6章からして何が言いたいのか判然としない、だらだらと著者の言いたいことが綴られているようにしか思えない文章を読まされることになる。冒頭で書いたように、このような「僕はこんなことまで議論してるし知ってるよ!」という、うんざりするような蘊蓄の垂れ流しというスタイルは、日本の人文・社会系の博士論文によくあるもので、もちろん工学系でも厚み 1mm あたりで1,000万円の見積もりを請求する IT ゼネコンの提案書があるため、理数系でもこういう文章を書く人はたくさんいるわけだが、昔から人文系は特にこういう著作物が多い。

せっかく insightful なアプローチで多くの事例を扱っているのに、データ集みたいなものと、何がいいたいのかはっきりしない結論では、読む価値があるのかどうかを推し量ることすら難しい。通読する時間のある方に活用してもらう他にない。

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