Scribble at 2023-12-27 10:17:20 Last modified: 2023-12-27 10:18:27

以前、Windows の MP3 ファイルを或るサイトで .m4r 形式に変換してから、iPhone に取り込んで着信音にしたことがある。でも、すっかり手順を忘れてしまって、再び着信音を好きな音源に指定する方法が分からなくなっている。

Android だと、ファイルマネージャで画像ファイルのコンテクスト・メニューを出したら「この画像を壁紙に設定する」といった項目があって、ファイルの関連付けが簡単だ。さすがに音声ファイルのメニューで「このサウンド・ファイルを着信音に設定する」なんていう具体的なアクションまでは必要ないとしても、とにかく iPhone というか iOS はファイルやフォルダの管理に融通が効かなくて困惑させられることが多い。そして、その理由は明白だ。

OS の設計思想が、ファイルやフォルダの「パス」という概念をユーザから取り上げる宗教だからだ。

これは、情報セキュリティの実務家という立場でも議論できることなのだが、こういう「隠蔽によって維持されるセキュリティ(安全)」というものは、多くの素人には「安心」を感じさせるのだが、しょせんはインチキである。却って多くの人が情報の漏洩や不正な挙動のアプリケーションやウェブサイトの攻撃に気づきにくくなったり、素人なりの対処ができなくなるという意味では、却ってシステムの(対障害性ではなく)障害が発生したあとのリカバリー性能が低下すると言いうる。フルパスがわからないので、どこをどう対処すればいいのか、僕らのようなエンジニアですら(jailbreak していない限り)わからなくなるからだ。

直感的には、パソコンのブラウザで iDrive にアップロードした .m4r ファイルを iPhone の「時計」アプリケーションから直にアラームの音源として指定できるのがスマートだ。でも、これをやると任意のファイルを参照することになるので、恐らく Apple Park の教祖さまたちは健気な子羊たちをハッカーらの攻撃から守ってやるために、アラームの音源として指定できるファイルの所在を隠蔽し、そこへアクセスできる唯一の手段として iTunes という法具だけを指定されているわけである。よって、われわれ神の子は、このありがたい iTunes だけを使ってしか iPhone のどこかにあるというメディア・ファイルの格納場所へファイルを転送してアラームの音源に指定できないという儀式によってのみ、自分の使いたいファイルをアラームや着信音に指定できる。

・・・われわれのような、パスの情報こそがファイルやフォルダを合理的かつ安全に管理するための基本だと思っている情報セキュリティの実務家、あるいは UNIX, GNU/Linux のエンジニアとしては、かような宗教を信じる気にはなれない。仮に macOS や iOS が正規の "UNIX" として認証されていようと、そんなことは単なる名札の問題でしかなく、「UNIX の精神」を共有しているかどうかとは関係がない。UNIX とは、ただのコードの配列であるプログラムがお互いに似ているかどうかとか、一方から他方を参照しているというだけの問題ではないからだ。僕は何の躊躇もなく Apple の OS は、とりわけターミナルでフルパスを垣間見ることすら許されない iOS は、「スピリットを欠いた UNIX」あるいは「UNIX の未熟なコスプレ」にすぎないと言える。

ただ、だからといって iPhone を投げ捨てようとは思わない。道具というものは、そもそも何かしらの制限なり限界があって、それを正確に理解したうえで扱うことが望ましい。やがて現状の制約では問題があると思えば、僕らがユーザとしてこのように書いたり発言している事例も参考にしながら、耕運機だろうと底引き網だろうと iPhone だろうと製造者はおのずから改善するであろう。ただ、そういう成果を待っているわけにはいかないので、ユーザとしてできることは、このように問題を感じたら発言することだろうし、そしてもう一つは「諦めること」である。どうすれば着信音に好きなファイルを指定できるのか、なんてことを求めずに、あるものをあるものとしてだけ使うということだ。欲望は必ずしも悪いものではないにせよ、欲があるからこそ現状では満たされなくてイライラするし、無駄な検索の時間も使う。しかし、iPhone で最初から選べる着信音だけを使っておけば、そういう問題は起きない。確かに、僕らはカルトの信者ではないから、唯々諾々と従うわけではないにせよ、抵抗するべきこととそうでもないことの違いを区別するための基準は必要だ。なので、僕はもうオリジナルの音源を使うとか、そういうカスタマイズ関連の欲求を iPhone で実現するのはやめることにした。

どのみち、当初の予定通り2年間が過ぎたら、さっさと2年後の最新機種へ乗り換えるのだ。Android の機種とは違って、手元に置いて本体料金の支払いが終わった後も使い続けるなんて気もないし、僕にとって iPhone は単なる道具、しかも一定の期間が過ぎたら返却する、事実上の「リース物件」でしかない。たかがリース物件にカスタマイズはおろか、過分な愛着を感じる必要はないのである。

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