Scribble at 2022-07-25 13:15:59 Last modified: unmodified

個人としての興味があって、岡村久道氏の『個人情報保護法の知識』(第5版、日経文庫1425、日本経済新聞出版、2021年)まで、初版から全ての版を古本などで買い揃えた。もちろん、企業の法務部に在籍しているわけでもない人が、こんなことをする必要などない。そして、当該の法律を使って契約や交渉あるいは社内で具体的な実務に携わるわけでもないなら、多少は古い本でも全く問題ないと思っている。

たとえば、僕は刑法総論だと学部時代に使っていた大塚仁氏や平野龍一氏の教科書しか手元にないので、これはいくら何でも古すぎる筈だ(たぶん、いまの司法試験の受験生は名前すら知らない人も多いだろう)。僕らが学部生だった頃ですら「古い」と言われていて、弁護士を志望していた友人は既に前田雅英氏の教科書に切り替えていたくらいである。しかし現在だと前田氏のテキストでも古いだろう。しかし、最新のテキストを闇雲に買うだけではきりがない。法律は、そして法律の解釈や判例や理論も常に変わるからだ。そして、解釈や理論については「変わる」ということが改善されるという意味だとは限らないわけで、最新のテキストを読んでいればいいというわけにはいかない(これは、本来は物理学であろうと哲学であろうと、あらゆる学問に言えることだ)。

ということなので、対象となる法律、そして法律が新しく作られたり改正されるための状況を、想定したり考慮したり対応できていない古すぎるテキストを敢えて読む必要などない。それは、僕のように解釈や説明の推移について関心がある変わり者だけがやればいいことだ。常識的な範囲で仕事や生活に必要な法律の知識を得たいということであれば、極端に古すぎるテキストは除外するにしても、最新のテキストを読む必要まではない。そういうテキストは、安く古本で読めないという制約があるからだ。

たとえば、僕は会社の役職者であるから、「会社」が何であるかを法律という観点でも理解しておくことが望ましい。すると、当たり前の話として「会社法」という法律を概略でも理解しておくのが良い筈である。こういう目的であれば、岩波新書の『会社法入門』(神田秀樹、2015)という通俗書に目を通してもいいだろう。しかし、新書だとあまりにも内容として足りないし説明も簡単すぎて分からないかもしれない。最初に新書で読んでから足りないところを更に単行本で補ってもよいが、そういう試行錯誤を何回でもやれる暇やお金が標準的なサラリーマンにあるという思い込みが通用するのは、岩波書店の編集者くらいのものであろう。よって、なるべく最初から十分な範囲と内容のテキストを手にする方が後悔もなさそうだと期待しても、それは無理な話ではない。現状では、会社法のテキストとして「定番」とされている著作物には、田中亘氏や江頭憲治郎氏の古典的な単著や、「リーガルクエスト」をはじめとする共著があり、先日も紹介したテキストの情報を参考に選べるようになっている。ただし、それらのテキストも最新の版を買い求める必要はなく、安く買えるなら数年ていどは古いものでも十分だ。その版が出た後に法律が大きく改正されたのであれば、大きな改正にかかわる解説が補足情報として別の本でも読める筈だからだ。会社とは何であるかを一般知識だけしかないサラリーマンが知るためだけに必要な範囲の素養であれば、そういう大掛かりな解説が必要とされるほどの改正でもない些細な改正であれば、知っていようといまいと本質的な違いはないであろう。

よって、会社法や労働法については5年や10年くらい前の本でも全く問題ないし(それで不足があるなら、不足を補う本やオンラインの記事を誰かが書いている筈だ)、いわんや憲法については更に昔の本でも基本的な問題はないと言いうる。したがって、10年ほど前のテキストが安く手に入るなら、それを読んでもいいわけで、それ以降の法律の改正などを補足していくのは自分で(必要な範囲で)やればいい。書かれた時点の知識で止めておくかどうかは読んだ当人が決めたらいいのであって、古い本を読んだという事実だけで、読んだ人の知識や理解が古いかどうかまでは分からないものだ。

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