Scribble at 2023-10-29 17:07:04 Last modified: 2023-10-30 14:59:09

社内で IT パスポートに準拠した研修や情報セキュリティに関連する話題の講習会などを実施している。もちろん ISMS やプライバシーマークの運用上で必要な教育でもあるが、そもそもネット・ベンチャーやウェブ制作会社や IT 企業と言えど、十分で偏りのない知識を備えている人員なんて殆どいないものである。これは僕自身にも言えることで、専門学校や大学の CS 学科を出ていようと大半の人は知識や関心が偏っていて、はっきり言えば使い物にならない。特に情報セキュリティや法務といった分野の習得については、敢えて避けているような人々も多い。なので、当社でもマネジメント・システムの要求からやっている教育・研修だけではなく、散発的に講習会を開いたり、あるいは1年くらいの長丁場で会議室に人を集めて座学で IT パスポートに準じた講習会を開催したこともあるし、いまは専ら動画を配信している。

そういう経験の中で、やはり最も受講者にとって縁遠く、また関心も低いのが、通信やコンピュータの原理や計算にかかわる事項だ。特に基数変換(radix conversion)は「仕事に関係ない」「難しい」と毎回のように不評を買っている。もちろん、IPA の試験を受けさせるわけでもないのだから、これを何度も取り上げて体得させようなんて意図はない。というか、僕も基数変換が法務や営業やデザインに役立つなどとは考えていない(もちろん役立ててもいいが、それは主業務でまともな売上や業績を上げてから後の話だろう)。ただし、そういう「小難しい」原理があって通信や計算が成立して、自分たちがネット・ベンチャーの社員として飯が食えているという程度の自覚は必要だろう。そして、自分たちが自宅で冷蔵庫の腐っていない飯を食えるのは電力会社があってこそだと自覚するのが正当であるのと同じく、自分たちが飯を食えているのはサーバ会社やプロバイダがあってこそだと自覚するくらいのことは、1年に1分くらいは思い出して悪いわけがなかろう。ネットワークや情報セキュリティは、神が下す恩恵ではなく、インフラやプラットフォーム企業があってこそ成立し、維持される。基数変換を始めとする「小難しいこと」の大半は、それを思い知るためのきっかけにすぎない。

なので、基数変換については過剰に詳しくは説明していないのだけれど、ウェブで調べてみると多くのサイト(その大半は IPA の試験対策と称するものだ)で、はっきり言えばデタラメで、基数変換という離散数学や代数上の原理的な理解が全くできていない、インチキな「わかりやすさ」をアピールするようなページが多すぎるという印象がある。もちろん、僕も CS 学科や数学科の博士号はもっていないからアマチュアであるには違いないが、少なくとも20年近くの教育・研修の経験をもっていて、多くの人達がどういうことを難しいと感じたり分かりにくいと思うかについて、フィードバックを受けてきた上で、幾つかの理解というか信念のようなものは得ている。なので、そういうことを公に還元して、既存の多くのサイトやブログ記事に見受ける、表面的には分かりやすそうだが、実は的外れで応用の利かない、根本的に基礎的な数学を理解していないインチキな説明だけでウェブが埋め尽くされるのを阻止する、ささやかな一助くらいは提供しておきたい。

特に、「文系」と自称してでたらめなことを書いている人が非常に多い。「理系」と称して程度の低い数学の知識や受験勉強的なセンスだけで偉そうなことを書いている連中もバカだと思うが、「文系」と自称するだけで数学を無視したいい加減な説明を他人に向かって書いて良いわけがない。「文系」を自称しておきながら、自分たちの未熟な解説や表現が他人に影響を与えて、もしかすると読み手がそのまま社会人として仕事に取り組むようになるかもしれないという想像力はないのだろうか。

それから、いま読んでいる『キタミ式イラストIT塾 基本情報技術者 令和05年』(技術評論社、2023)だが、非常に分かりにくい。例題にも「ECC」などの未定義語がたくさん使われていて、初心者を困惑させるには十分すぎる。これでは冒頭から読む気がなくなるのも分かるし、基本情報技術者試験ていどの試験が合格率4割以下にとどまるのも仕方ないと思う。とにかく、これは PHILSCI.INFO でもインチキなイラストや図表で哲学用語を解説しているバカどもにも言っていることだが、イラストがあるせいで、どこが重要なのか逆に分かりにくくなってしまうのだ。最も顕著な問題は、イラストだらけだとテキストの配置に一貫性がなくなるので、読む順番が分からなくなる。しかも、重要なことを言ってるイラストが小さく描かれていたり、どうでもいいことを書いている手書きの文字が逆に大きかったり、これでは読んでいる方が混乱したり困惑させられるのは当然だろうと思う。失礼を承知で敢えて言えば、分かりにくいテキストを出版業界で出し続けて、合格者を伸ばさずにテキストの売上を一定数に維持するための事実上のカルテルではないかとすら思える。やはり、漫画を描けるていどの追加技能しかないライターが資格試験の教科書なんて出版してはいけないという一つのよい事例だろう。イラストや漫画での解説を否定したり低俗だなどと侮蔑するつもりはないが、こういうものは必要だと認められることについて効果的に使うのが筋であって、文章で書けばいいことを闇雲に絵で表すというのは、スキルに振り回されている典型的な三流のクリエイターだと思う。あるいは編集者がバカなのかのどちらかだろう。

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