Scribble at 2024-01-09 11:43:31 Last modified: 2024-01-09 12:36:54

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7 lessons from building 9 startups in 2023

シンプルだが興味深い記事だ。僕らのような企業としてオンライン・サービスを提供している組織やサービスについても、学ぶべきことがあると思う。一つずつ取り上げている余裕はないが、特に取り上げておきたい幾つかの項目を議論しておこう。

"1. Don’t marry your idea" は、確かにそうだ。そして、これは個人としてやるからこそ持ち続けられる方針だと思う。組織になると、やはり他人を雇用して生活を支えることになるので、簡単に事業をやめたり会社を畳むというわけにはいかない。ただ、個人としてスマートフォンのアプリケーションなどを開発して事業を始める人の多くは、単にアプリケーションを開発するとか、お金を稼ぐというだけではなく、何かその人の考えなり生活なり仕事なり経験なりに即して、事業を始めようとすることもあるだろう。例えば、石川県で被災した人々に有益な情報を提供するアプリケーションを作りたいと思って何か始める人が、多くのユーザを集められなかったからといって、今度は生成 AI で大量に出力したスケベ画像を餌にしたゲームだとか、インチキ NFT 市場(というか NFT そのものが或る意味ではインチキだったわけだが)を開発するかという話である。そこまで無節操に金や地位だけが欲しいなら、そういう人にアドバイスしたり、ここでわざわざ科学哲学者なり企業の部長職の人間が、そういうデタラメなやつの起業についてわざわざ議論してやる必要などないだろう。違法行為や脱法行為は別として、それ以外は勝手になんでもすればいい。

"3. Subscriptions headache is real" は、ここ数年で言葉だけは流行しているが、現実には多くのサービスやアプリケーションでは導入が難しい「サブスク」の話である。多くの人は、アホではないので、誰でもすぐにサブスクのコストを計算する。たとえば、Adobe Photoshop は昔なら1つのパッケージ製品を購入すると約9万円ほどの出費だった。それが、いまでは Adobe Creative Cloud というサブスクになって、単体の契約だと年間で3万円弱となる。減価償却の考え方からすれば、ソフトウェアの償却は5年(研究開発用のソフトウェアは3年)であるため、9万円の出費で5年間は使えることが望ましい。しかし、サブスクだと5年の支払で15万円となるから、どう考えても割高である。これが、いまだに多くの印刷会社で Illustrator 9 での入稿を許容している理由の一つだと言っていい。つまり、デザイン事務所で使われている Illustrator のバージョンが9とか、酷いところでは7だったりするので、そういう古いバージョンのファイル形式をサポートしないと印刷会社は利用してもらえないわけである。そして、印刷会社の方にも、新しいファイル形式で入稿されても対応できない機械を使い続けているという事情もある。もちろん機材を全て置き換えるわけではないが、インターフェイスの機器だけを交換するだけでも、印刷会社で使っている機器なんて台数が少ない特注品であるから、数十万円なんてオーダーでは交換できない。そして、印刷会社に Adobe 製品のバージョン・アップにあわせてホイホイと機材をアップデートするだけの余裕なんてないのである。凸版や大日本クラスはしらんけど。

そして、これはゲームのような場合にも言えることだ。サブスク料金を払っているからプレイするなんていう本末転倒なことをしたくないユーザは、そういうプランでしか提供されていないゲームそのものをプレイしないだろう。そのゲームがプレイするに値するかどうか分からないうちは、なおさらだ。多くのユーザが、それでもサブスクでゲームをプレイし始めるのは、お試し用のパッケージ版(一定のレベルまでしかプレイできないとか、1ヶ月だけプレイできるようなアカウントとして参加できるようになり、正式に契約するとプレイを続行できるような仕組みになっていることが多い)の値段が高すぎるからでしかない。

つまり、サブスクはどう考えてもサービス提供側にとって「ストック事業」という気軽な販売手法という都合でしかなく、消費者の大半にとっては単なる割高な販売手法でしかない。サービスを提供する側は、二言目には安定した事業を継続するためとか、開発資金を確保するためなどと弁解するわけだが、大多数の消費者はいま使っているサービスを安定して継続してもらえばいいのであって、将来の投資や開発資金なんて考慮していない。本来、そういう資金はカスタマーに割高な料金を請求して確保するものではなく、投資家や銀行を説得して融資を受けるのが、現代の金融資本主義経済において事業を営む者の道理というものであろう。

"7. Food + Sleep + Workout = Psychiatrist" は、特に個人として事業を起こす起業家だけではなく、イージーな思い込みや期待だけで脱サラするような諸君も覚悟した方がよい注意点だろう。記事が明言しているように、個人事業の起業家は「10個の帽子を被っている」。つまり、経営者でもあり、プログラマでもあり、デザイナーでもあり、マーケターでもあり、営業でもあり、経理でもあり、総務でもあり・・・と、事業を運営するために必要な職能を全て担う必要がある。そして、多くの(特に男性の)デザイナーやコーダーや営業が脱サラして失敗することがあるのは、こういう場合に「妻」という人物を無償の社員として当てにすることだ。多くの家庭でこういう思い込みや錯覚が離婚の原因になっているのは、もはや誰でも知っていることだろう。きみたち意識高い系の夢なんて、たいていのパートナー(男であれ女であれ LGBTQ+ であれ)にとっては、それが石川の被災者を助けるためであろと、母子家庭を援助するためであろうと、しょせんはどうでもいいことだ。そして、そういうパートナーの心情を非難する資格なんて誰にもないのである。

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