Scribble at 2026-01-12 09:03:39 Last modified: 2026-01-13 19:27:21
市橋氏の「話すためのアメリカ口語表現辞典」というタイトルの本は、ぜんぶで3種類が発行されている。僕が持っているのは上に紹介している最も大部の初版(2007年)である。そして、次に「普及版」(2013年)という小型の判形で再刊され(ただし表紙がハード・カバーなので、逆に扱い辛い気がする)、それから更に、収録されている表現の中で使われていない表現をリストから削除した「エッセンシャル版」(2024年)というのも出た。どれを買うべきかは、人によって基準が違うと思うけれど、僕は「エッセンシャル版」をお勧めする。アメリカ人の多くが使わない表現を覚えたところで、そんなもん間違い探しがうまくなるだけだ。もともと初版を編集する段階で、そんなものはカットしておくべきだったろうと僕は思う。
そして、「エッセンシャル版」ですら、僕は収録されている文例が無駄に多いと思っている。もちろん、「中学英語で十分」だの「100語で話せる」だのという御託を口にするような連中は論外だが、かといって市橋氏が本書に収録している表現を熱心に覚えたらいいというものでもない。
He is a real idiot.
こういう表現が収録されている。でも、僕はこんなもの覚える必要はないと思うので、この手の表現を無造作に続々と収録している本書は、はっきり言って無駄が多すぎると思う。理由として、"idiot" の意味を知ってたら、こんなことくらい普通の英文法の知識だけで言えるからだ。「英会話」なり「口語」の辞典に教えてもらう必要なんてないはずである。
どうして他の国には、こういう英会話用の分厚い辞書や口語辞典がないのかというと(事実、ない)、会話で話している大半の表現は、「英会話」などという特殊な文法や慣用句を使っているわけではないからだ。日本では、とにかく「英会話」を英語の別ジャンルか別の言語であるかのように扱いすぎている。でも、実際には文法で習ったとおりの文法、そして覚えたとおりの語義に従って単語を扱って会話しても相手に通じるのだ。そらそうだろう。日本語でも、文語体で話す人の表現は確かに奇妙な話し方に聞こえるけれど、何を話しているのか分からない日本人なんていない。そして、言葉を使う目的は相手に自分が言いたいことを伝えるということであって、「英会話」することではないのだ。
それから関連する話をしておくと、よく書店に「ビジネス英会話」の本があって、もちろん会社とか商店で話すという想定で書かれているわけだが、大学時代に第一外国語の英語で同じクラスだった人たちの話している様子を聞いていたときに、どうも「ビジネス英会話」というものを誤解しているようだった。つまり、ビジネス用の英語というものがあって、専用の文法だとか特別な言い回しを覚えなくてはいけないと思っているのだ。もちろん、英語はありふれた単語の組み合わせで慣用句だけではなく専門用語も表現していることがあるから、全くの間違いというわけではない。しかし、こういう理解が強すぎると、学校で教わった英語に加えて「ビジネス英語」なる第二の英語を学ばなくてはいけない(よって、それ専用の本を買わなくてはいけない)ということになる。出版社にしてみれば好都合な錯覚や思い込みなのであろうが、こういうことを放置するからこそ、多くの人は途中で挫折してしまう。そして、出版社や教育者は情報の非対称性で飯を食っているのだから、どれだけ挫折する人が出ても知らん顔である。なぜなら、彼ら出版社や英語教育者は、何もせずに鼻くそをほじっているだけで、自動的に次の世代が本を買ってくれたり学校で英語を一から勉強してくれるからだ。よって、日本の英語教育の問題は、寧ろ積極的に放置されていたのではないかと勘繰りたくもなる。
だが、実際にはビジネスの現場だろうと観光旅行だろうとベッドの上であろうと、それが英語と呼ばれている言語でのコミュニケーションである限り、基本は同じである。そういう余計なことに神経やお金を浪費するのはやめて、堅実に基本的な文法を学び、愚直に単語を覚えていくだけでよいと思う。そして、具体的にそれでみんながどう書いたり話しているかは、現実の使い方を眺めたらいいだけなのだ。こういうことは、受験という期日のある範囲で学ぶときには効率が悪いため、教育現場では推奨されないのだが、受験で点数さえとれたらいいわけではないのは、TOEIC の得点が高くても話せない人が圧倒的に多いという現実によって分かる。だが、中等教育までの教師にとっては、そんなことどうでもよいのだろう。