Scribble at 2021-08-18 10:53:49 Last modified: 2021-08-18 17:15:45
本日は『アクション・ラーニング』(デービッド・A・ガービン/著、ダイヤモンド社、2002)を読み進めている。やはり学術研究者の論述は精密で丁寧だし、加えてアメリカの経営学者は実務経験をもつ人が多いため、現実のマネジメントへ応用できる点が多くて助かる。デイヴィッド・アラン・ガーヴィン(David Alan Garvin)は1952年にニューヨーク市で生まれてハーヴァード大学を出た後に MIT で経済学の博士号を取得している。本書もよく売れたようだが、ガーヴィンの名前が知られているのは品質管理の分野らしい(eight dimensions of product quality management)。その後は上記の訃報に詳しく書かれているので、このていどの英語は辞書なしで読めなくても Google Translate なりで概略がつかめるだろう。
本書を読み進めていて感心させられるのは、視野の広さである。冒頭に数多くの関連する分野から知見を集めたと書かれているように、2002年、原著の出版年なら2001年の時点で、もちろん組織の学習なり knowledge management を議論しているだけでなく、心理的安全性やフレームワークやクリティカル・シンキングなどについても取り上げていて、しかも、いまだに〈最新の話題〉などと称して嘘っぱちのブームを捏造している日本の出版社とは対局の冷静な姿勢が伺える。ここ数年ほど『学習する組織』という黒い本が有名となり、その虎の巻すら出版されているほどだが、20年前に本書を読み、有効に活用していた企業人から見れば(そんな人が国内の上場企業ですら、どれほどいるのか知らんがね。なにせ、いまだに額縁に飾っておけばいいような野中郁次郎氏のお説教みたいな本が新装版として売れているほどだ)唖然とするような情景に映るだろう。
ただ、本書にも幾つかの弱点があるように思える。第一に、全体として実務的な話が延々と展開されているためか、各章ごとの主旨が分からない。個々の論点は分かるのだが、それら全てが要点にもなってしまっているため、全てが重要だと言って雑然と並べられているように見える。それゆえ、逆に皮肉なことだが、どの議論も記憶に残らないのだ。そして第二に、経営学で議論されてきた数多くのテーマが現れる視野の広さは評価に値するけれど、それ以上に人間関係論や社会心理学や文化人類学あるいは哲学といった多くの分野から知見を得て議論している内容の多くが、付け焼き刃で持ち込んだような印象を受ける。特にデューイやパースといったプラグマティズムの哲学者が語ったフレーズを色々なところで引用しているが、残念ながら哲学を専攻している人間なかんずく哲学者を名乗る人間から見て、そこで哲学者の片言隻句を引き合いに出す必要を感じない。