Scribble at 2024-05-10 22:29:57 Last modified: 2024-05-11 09:48:10

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ジェームズ・M・バーダマン、森本豊富『地図で読むアメリカ』(朝日新聞出版、2020)

アメリカ合衆国の50州を10の区域に分割し直して、それぞれの区域の文化や経済活動や宗教などを解説したり、日系人の割合など日本との関係も合わせて紹介するという、かなりユニークなアメリカの本だ。興味深い話題が散見されるので、ひとまずお勧めはしておく。しかしながら、正直なところ大きく言って2つの点が欠点だと思う。

一つは、「地図で読む」というタイトルなのに、殆ど人文・自然地理的な話が出てこないということだ。地形や気候あるいは海流などとの関連を強調できるからこそ、「地図」という言葉がわざわざ使えるのであって、人口動態などは人文地理的な環境が築かれた結果として出てくる話にすぎない。一定の区域に区切って説明しますというだけでは「地図」の話にはならない。「地図で読む」という日本語の表現について、何十年も日本で暮らして大学ですら教鞭と取っているのに、著者は connotation が理解できないのだろうか。

そしてもう一つの欠点は、アメリカの通史という観点が完全に欠落していることである。通史を学んだうえで本書を副読本や雑読の対象として読むならいいが、通史を殆ど学んでいない人が最初に読むような本ではないと思う。あと、アメリカの「暗部」にばかり焦点を合わせすぎていて、アメリカにどれだけの社会問題があるかという印象の本になっているのも、なんだか偏った本だなと思う。

それから、この手の本ならどれでも指摘できるからいちいち強調しないが、やれアパラチア地域はこうで、マサチューセッツあたりはこうだと、要するに偏見を上塗りしていることにもなりかねない。著者らはまったくの統計的なデータや「事実」を述べているだけだと思うかもしれないが、その統計とやらが個々の区域の 60 % ていどにしか該当しないなら、それは残る 40 % についてはデタラメを言っていることになるからだ。そして、社会科学的な話題について或る地域の住民の大半が特定の傾向を持っているなどと言える事例は殆どないのであって、逆に特定の地域の住人がほぼ同じ傾向をもっているなら、その地域はアメリカの中でも相当に狭い範囲の特別な地域として説明するべきであり、とても10個の区域に分割するだけでは足りないと思う。

なんで「朝日新聞」を冠する出版社が、こういう微妙な本を出してしまうのか、ちょっと理解に苦しむ。確かに、この本で取り上げられている話題の切り口は、やれ宗教右派がどうの、先住民がどう、あるいは環境問題、やれ失業、やれ貧困、やれ差別と、いかにも「朝日」ブランドの本という気がしないでもないが、偏りは偏りだ。

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