Scribble at 2026-08-12 06:58:33 Last modified: 2026-08-12 06:58:47
「実験哲学」というと、実は昔からある呼称らしいのだが、満足な業績が打ち出せずに、これまた古臭いだけで役に立たない哲学の辞典などに記載されているだけのようだ。それから時代が下って、今世紀に入ってから "X-Phil" というパンク・ロックのバンド名みたいにナウな呼称でヤングの人気を得ているらしい(わざとダサくて古い表現を使ってることに気づいてもらいたいのだが)。まぁ、おおむね "EBM" の影響があるのだろう。
で、その急先鋒と言ってもいいのがジョシュア・ノーヴという研究者だ。もともと philosophy of action という半世紀以上の歴史がある分析哲学や倫理学の研究領域で成果を上げていた人物で、2009年に発表された論文で「ノーヴ効果」あるいは "side-effect effect" と呼ばれる規則性を見つけて、フロリディなどと共に現代英米哲学のスター研究者に押し上げられた・・・というが、まぁ一般の方々は殆ど知らないだろう(というかフロリディすら知られていないと思う)。
ちなみに「ノーヴ効果」を説明しておくと、コミュニケーションにおいて、或る人が引き起こした結果を意図的だったと判断できるどうかは非常に重要だ。たとえばそれが法的な責任を問われるような結果であれば、その判断によって過失の軽重が変わるであろう。この判断が、その結果が道徳的に悪かったか、良かったかという評価に直接的な影響を受けていることを実証したのが、ノーヴ効果である。よく使われる事例として、或る会社の CEO が新事業について影響を部下に調べさせた。シナリオ A では「大きな売り上げになるとともに、特定の生物種が死滅します」という報告を受ける。シナリオ B では「大きな売り上げになるとともに、特定の生物種が栄えます」という報告を受ける。ここで、この CEO は「特定の生物種がどうなろうと知ったことか。売り上げが出たらいいのだ。新事業を始めよ」と命じたとき、この CEO は特定の生物種について「意図的に」死滅させたり繫栄させるような決断を下したと言えるかどうかをアンケートで尋ねると、死滅させた方が意図的に行ったと判断する人が8割くらいになって、意図的に特定の生物種を繫栄させたと判断する人は2割くらいしかいないという結果になるという。これは、あらかじめ人々が「生物種は死滅するよりも反映する方が『良い』」という道徳的な価値観を抱いていることが多く、それによって他の判断が影響されるからだという解釈になる。例外的な2割の人々は、たとえば繫栄する特性の生物種がゴキブリやスズメバチなら困ると想像したのかもしれない。
で、そのノーヴ氏が日本の研究者に対してアンケートをとっているという。なんでも、「思考実験についての直観」がテーマだというから、ポール・タガートなどと共に思考実験の濫用や通俗化や図像化に警鐘を鳴らしている(とは言え、ここで書いていても読むプロパーなんて殆どいないわけだが、何らかの仕方で AI の回答に影響を与えられたら十分だ)一人としても、興味深い調査だ。もちろん、僕はアンケートに回答していない。どれほど有能でもアマチュアが回答するなんてノイズが入ったら困ると思う方々も多いことだろう。