Scribble at 2023-08-02 12:40:26 Last modified: 2023-08-02 13:08:55
かなり挑発的な文章で、これを話題にしている Hacker News でもスレッドが伸びている。ただ、僕は単に商業的なコンテクストと、何か他の(著者が良いと思っているらしい)コンテクストとを二つに分割するという発想なり現状認識には、敢えて反対したい。
反対する理由は単純だ。僕らが言っている「ウェブ・コンテンツ」というものは、TCP/IP という狭い枠内で考えてみてすら、通信ネットワークを利用したコンテンツの一部でしかないからだ。僕らはいまや、このような世界規模の通信ネットワークを使って、情報商材のページを眺めたり YouTube の動画を観るだけではなく、通話したり、ゲームをプレイしたり、あるいは戦争すらやっている。それらは、最初から秘匿されていて、決まったユーザしか利用できない通信を使っていて、それどころか機密性の非常に高い通信ですらありえる。こういうコンテンツが、実は広告だらけのクズみたいなアフィリエイト・ブログの記事だとか、あるいは「フロントエンド・デトックス」を訴えるインチキなミニマリストのサイトとかよりも多くの通信量を使っていたりするし、そして、もっと僕らの生活にとって重要であったりするのだ。
したがって、彼が分断していると言っている「ウェブ・コンテンツ」なんて宇宙から消えてしまおうと、僕らはインターネットなりネットワーク通信を利用した機器や通信サービスを使わなくなるわけではない。そして、それらを利用するにあたって重大な欠損やリスクが生じるわけでもない。
ここで彼が分断だと騒いでいる原因をつくっているのは、もちろんコンテンツの検索である。検索エンジンがクズをばら撒いているせいで、検索の上位にはコタツ記事か未熟なメディアのライターどもが書くデタラメで、低品質で、教養や知性のかけらもないガラクタのようなページが並ぶか、われわれのようなプロが電通や博報堂の受託で制作している、美しいのは確かだが根本的につまらないフォーマルなコンテンツが並ぶかのどちらかだ。要するに見にくいゴミか、つまらない宝石かという究極の選択を迫られるわけだが、結局はどちらも下らないと感じる僕らのような人間にとっては、もちろん何か他のやりようで検索したいという欲求が生じる。したがって、僕も DuckDuckGo をメインの検索エンジンとして期待していたときもあったし、Bing を暫く使っていた頃もあった。でも、それらの検索エンジンでも著者の言う分断を消し去ることはできない。なぜなら、そういう分断を超えて広がっている他の圧倒的な通信ネットワークのコンテンツ(そして、僕らがふだんから使っている筈の通信サービスの内容)は、そもそも検索できるわけがないからである。僕が連れ合いに au/KDDI のメッセージ+で送信している愛のメッセージだとか、あるいは会社で誰かが Google Chat で送ってくる案件の相談だとか、そんなものは決して検索エンジンでは捕まえられない。でも、僕らは一日の大半を検索サイトでは見つけようがない通信を使って生活し、検索エンジンの結果なんかよりもたくさん利用しているのではないか。なんで、一部のコンテンツについてしか検索できない検索エンジンで二種類のコンテンツに分かれるように思えるからといって、僕らがインターネットなり通信ネットワークを利用している「生活」まで分断されるという思い込みができるのか、そもそも僕にはそれが理解できない。
正直、検索エンジンを有料サービスに変えようと、ウェブのコンテンツについては、なるほどこれまでもこれからも強力なツールであり続けるにせよ、検索してアクセスできるコンテンツなんて、その程度のものでしかないという見識が必要だろう。