Scribble at 2023-08-21 08:14:15 Last modified: 2023-08-21 09:21:13

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ドイツにいる Christoph Schiller という人物が公開している無料の物理学のテキストだ。他の言語でも翻訳されていて、全部で5巻あるテキストの第2巻(相対論)が日本語でも翻訳されている。プロフィールを見ている限りでは、特にどこかの教員とか研究員というわけでもないらしいが、僕はこういう人々を日本のマスコミみたいに「独立研究者」などと呼ぶつもりはない。そんな自意識こそ、学術とは関係のないパフォーマンスや属人的な語り口とか風貌だけで人気を得ている YouTube と同じく、口先だけの無能が名刺に書くような肩書にすぎないからだ。そもそも、300年くらい前の西欧では大学で自然科学は教えていなかったのだから(昔の大学は、要するに全て「神学校」だったからだ)、こういう人たちがごくごく平凡な自然現象の研究者(まだ "science" とか "scientist" という言葉もなかった)だったのである。

さて、それはともかくとして、こういう人々の成果というのは往々にして「相対論は間違ってる系」とか「不完全性定理は間違ってる系」のような独自路線のトンデモ解釈に陥りやすいと言われているわけで、実際にこのページを紹介している Hacker News でも "Do not try to learn anything from the submitted article, it promotes a, shall we say, "non-traditional" view of physics that is unlikely to be helpful." と言われたりしているし、「彼は物理学の世界では有名な "crackpot" なんだよ」と言う人すらいる。確かに、雑で自分勝手な解釈にもとづく証明で作り上げた、壮大ではあるが中身は思い込みや誤解が詰まっているアマチュアの工芸作品なのであろう。そもそも、大半の研究者というのは自分の専門分野を超えて教科書を書けるほどの見識や情報なんて持っていないものである。それは、科学哲学のような分野にでも言えることであって、僕のように確率と統計を主に学んでいた人間の多くは、たぶん宇宙論とか量子力学のテクニカルな議論にはついていけないし、そもそも関心だってない人が多い。実際、僕は30年くらい前から経済学の科学哲学という分野があるのを知っているが、その30年前に読んだ幾つかの本や雑誌論文から関心をもつのはやめてしまった。あの分野は、ポパーだウィトゲンシュタインだと論文の中で namedropping するだけで文章の中身が「深遠」になるかのような錯覚を抱いている無能の集団だと、学部生の僕ですら閉口するような水準の成果しかなかったからだ。これは極端な事例だが、たいていの大学の研究者というのは、他の分野に手を出すと酷いことになる。とりわけ、我が国でも数学者が大学の運営をやったりだね、数学者が日本文化についてエッセイを書いたりしているわけだが、ロクでもないということはみなさんもご承知だろう。

宇宙の原理を9つのアイテムで説明するというのは、一つの理論で説明するというほどのインパクトはなくとも、かなり「シンプル」なアプローチだとは言える。でも、やはり僕はそういう単純化の多くは、歴史的な経緯から言っても短絡化にすぎないと思う。つまるところ宇宙で起きる複雑で多様な現象を理解する能力が足りない人々に限って、宇宙の方を単純化してしまい、それを「記述した」と称してはイージーな理屈を立てるわけである。

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