Scribble at 2023-04-23 11:33:18 Last modified: 2023-04-23 11:38:18

既に実用レベルの切れ刃がついている剃刀を砥石や研磨フィルムに当てて、やれ片側が30回だのバリが出るだのとやってる研ぎ動画の大半が嘘っぱちであるという話を、他の観点からもやっておく。

YouTube などには、剃刀だけでなく他の刃物を研いでいる動画があって、既にご承知のとおりナイフや包丁を研ぐ動画がたくさんある。そして、プロの研ぎ師(とはいえ国家資格や認定団体があるわけでもないので、実際のところは怪しい人もいるわけだが)が包丁を研いでいる動画を簡単に眺められる。すると、何十もの動画を観なくても分かるように、包丁の刃先を研ぐというメンテナンスは調理師なら殆ど日課と言える作業であり、そして刃を砥石に当てる時間や刃を研ぐ回数などは、どう考えてもイージーとは言えない。調理に使うと、いくら柔らかい野菜や果物を切っていても刃先は傷むわけなので、正確に言うなら削り過ぎになっている(つまり削り過ぎて刃物としての消耗が進む)可能性はあろうと、研ぎ方が不足して切れ味が悪くなったまま翌日の業務に使うよりはいいという現実的な判断で研がれていると考えられる。日本料理の調理師が、みんな光学顕微鏡を所持しているわけではないだろう。

これに比べて、包丁よりも刃先が鋭くなっていて、髭という(一般的に思われているよりも)堅い部位を切断する道具のメンテナンスには、もっと繊細で丁寧な作業が求められるのは当然であろう。かといって、毎日のように研がなくてはいけないほど刃先が鋭すぎるのは手間がかかるし、炭素鋼という柔らかい鋼の耐久性から言っても、頻繁に研ぐほどの破損は起こしたくないわけである。したがって、何度も述べているように、「刃先アール」と呼ばれる鋭さの精度は求められても、その刃先の角度は鋭すぎてはいけないとされていて、それゆえ工業製品としての替刃は先端部が最も大きな角度で研がれているわけである。

購入したばかりの剃刀を研磨フィルムや砥石に当てて、30回だ25回だとやってるのは、僕に言わせれば「ショー」にすぎない。もともと shave-ready になっている切れ刃(小刃)とは関係のない、刀背と刃先(の手前)を密着させて無意味に削っているだけの作業だからだ。そして、本当の切れ刃はもっと大きな角度で作られている筈であり、そこをメンテナンスするためには何度も研がなくてもいいようになっている。それゆえ、いったん作られた切れ刃のメンテナンスは、あるていどの期間なり使用回数までは革砥を使うだけでいいのだ。

なお、包丁の研ぎ方を剃刀に応用できないのは、いわば包丁の研ぎ方は切れ刃と同じ角度で刃先全体を研いでいるため、敢えて蛤刃にしない場合は切れ刃も含めた刃先全体を研ぎ直していることになるからだ。よって、剃刀のように刀身を密着させるような研ぎ方だと、そのうち角度が狂ってくるから、包丁を研ぐときは刀身を砥石から離して一定の角度を最初から維持して作業するようになっている。

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