Scribble at 2023-05-04 09:46:49 Last modified: 2023-06-05 07:54:03

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Lather Talk Wet Shaving Podcast Episode 62: Jon and Gerard discuss the recent slew of wet shaving artisans who have closed down and what implications it might have on the current state of the wetshaving hobby.

Lather Talk Episode 062 - See Yo…

非常に質の悪い編集をしている番組だ。僕のリスニングが足りないせいもあると思うが、自分の発言に自分の次の発言を編集で被せている(タイパのため?)のではないかと思うほど、息継ぎせずに喋っているという印象を受ける。そのため、相手とのやりとりが下手な台本を使って交代で喋ってるだけの芝居みたいに聞こえる。会話になっていないという印象である。

ともあれ、内容としては僕も Etsy などを見ていて同感できる。特に、剃刀の本体なんて素人に製造できるわけがないのだが、替刃式のハンドルだけなら似たような形状の「物体」、それこそ Razor Shaped Object(剃刀の形をしたゴミ)を 3D プリンターで簡単に造作できる。いまでは、恐らくパキスタンやトルコや中国で大量に作られたキットのようなものが流通していると考えられる。実際、ロゴだけ替えてあるような同じ造りのハンドルが Etsy や Amazon や AliExpress に幾らでも出品されているからだ。それがイギリスからの発送だろうと中国からだろうとチュニジアからだろうと、あるいは千葉県からだろうと、同じことなのである。そうであれば、物自体が工業製品として一定の(それほど高品質ではなくても)品質を保っている限り、安い業者から買えばいいだけのことでしかない。そして、これは artisan が多いシェーヴィング用品では避けられないことだろうと思う。

エステやコスメの一種として、品質なんてどうでもいいという連中が「京都の山で採れた」だの「イギリス紳士の身だしなみ」だのといったフレーズで、髭剃りの本質とは何の関係もない高級砥石や高級シェーヴィング・ソープを買い漁り、YouTube で FX 成金や実はホストという小僧どもが雑に扱って見せびらかすような動画が垂れ流されている限り、そこに当て込んだ連中が続々と参入してくるのは避けられまい。僕は、当サイトでは次のような方針で記事を書いたり議論したり解説したいと思っている。

髭剃りそのものはありふれた生活の一部であり、金持ちの暇潰しではない。

髭剃りそのものは誰でもできるしできるべきであり、理容師だけの特殊技能ではない。

髭剃りの用具は誰でもメンテナンスできるべきであり、人間国宝級の研ぎ師だけの秘儀ではない。

これは何も革命的プロレタリアートにも髭剃りの権利を、みたいな貧乏人の僻み根性で言っているわけではない。いちおう経済的に豊かとされる日本の企業に勤めて役職者としての待遇を得ており、趣味や娯楽に一定の金を使える人間としても言えることだ。毎月のように H. Boker だ DOVO だ、18世紀の5万円ほどするヴィンテージだ、三条で製作された40万円の日本剃刀だ、2万円の名倉だと、毎月のようにブログや YouTube で見せびらかすような経済力はないが(まぁそれだけ金があれば、髭剃りマニアである以前に科学哲学者なのだから専門書を買うがね)、やろうと思えば毎月のように1個ずつ artisan の3,000円前後のシェーヴィング・ソープを海外から購入するくらいの小遣いはある。でも、SR で髭を剃り始めて数ヵ月の人間が言うのも変だが、それが髭剃りやスキン・ケアにとって本質でもなんでもないことくらいは心得ているつもりだ。

もちろん、色々な商品が揃っている方がいいのは確かだ。化粧品にしても、体質や日々の肌の様子によって合う場合と合わない場合があったりする。とりわけ髭剃りの場合は、剃った結果が常に安定しているとは限らないので、アフターシェーヴ・ローションなども、さっぱりするものと刺激が少ないものがあると便利だ。よって、コスメ用品というものは、必ずしも水に少し何か混ぜただけのインチキ商売などではない。その少しだけ混ぜる「何か」が、個人差によって色々な影響を肌に(短期的であれ長期的であれ)与える可能性があるからだ。でも、上記の番組で語られているように、あまりにもイージーに参入できてしまうと(特にシェーヴィング・ソープなんて、やろうと思えば誰でも家庭で自作できるわけだし)、過当競争によって品質がどうでもいいという市場になってしまう。ウェブ制作事業に置き換えて言えば、コーディング業務みたいなものだ。これは、キュレーターとしての EC サイトやマニアが積極的に支持する職人なりメーカーを後押しする必要があろう。

それから、番組ではブランディングを維持するような効果を期待して動画をせっせと配信しているようだが、その手間が見合わないという話も出ている。実際、僕が YouTube でよく見ている髭剃り用具のメーカーや EC サイトにしても、"Shaving Nation" の geofatboy さんや "Razor Emporium" の Matt さんらは熱心に動画を配信しているが、それ以外の事業者は更新頻度も低いし、正直なところ他の EC サイトのネタの使い回しとか、あるいは髭剃りと大して関係のない下らないお喋り(そこまで君らにセレブリティはないだろう)ばかりだ。語ることが業界の実情とか、髭剃りの基本事項みたいなことばかりでは、確かに誰も観なくなる。観ている方は長く観ているほど上達した視聴者なのだから、そんな基礎知識を繰り返されても困るからだ。ちょうど『日経ソフトウェア』という雑誌にも言えることだが、歳時記かと思うほど型にはまったように、4月になれば C 言語やテキスト・エディタの話を IT ゼネコンの新卒向けに掲載されても、我々のように何十年もシステム開発に携わっている者には読む価値がなくなる。でも、髭剃りについて配信する新しい話題がなくなるというなら、たいへん失礼で気の毒なことを言うようだが、それは配信する側が無教養だからでもあろう。

理容師の専門学校で採用されているテキストを読むと分かることだが、髭剃りはスキン・ケアの一部であり、髭剃りに関わる知見や学問はきわめて幅広い。簡単に考えても、髭剃り「用具」としての剃刀には無機化学や金属学や材料工学の知識が関わるし、髭剃り「対象」としての肌には有機化学や生化学や皮膚科学の知識が関わる。シェーヴィングとして剃刀の運行を考えるときには物理学やトライボロジー(摩擦工学)の知識が欠かせないし、まだまだ厳密かつ詳細に調べたり議論されていないことが、髭剃りにはたくさんあるのだ。確かに、こうした知識や関連情報やデータの多くは Gillette (P&G) や貝印といったメーカーのシンクタンクにおいて秘匿されていたりもするのだろうが、公に科学や工学として議論する余地も多いというのが僕の実感だ。

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