Scribble at 2020-11-14 21:20:56 Last modified: 2020-11-17 09:15:45

いっとき、BOP(bottom of the piramid)ビジネスと称してはアフリカや中央アジアや中南米に営業をかけたり投資するのを流行らせようとした詐欺師がたくさんいたわけだけど、もう殆ど BOP なんて聞かなくなった。数多くの実績(つまりは失敗)が蓄積されて共有されるようになって、そういうプロパガンダは巨大資本がベンチャーを誘導して疲弊させるための、コンサルティング業界や経営学のコミュニティを巻き込んだグローバルなデタラメであることが分かったからだ。そら、僻地にまで営業しつつ成果が上がるまで耐えられるのは、P&G やユニリーバやジョンソン&ジョンソンのように余裕かましてる巨大資本だけである。BOP の対象とされる国の大半は法律や貨幣制度すら整備されておらず、いまだに物々交換で生計を立てているような人々も多くいる(それが悪いとは言ってない)。いわば、経済という社会的な基盤を政治や軍隊を取り込みつつ構築していくような長期的で陰湿さも必要な巨大プロジェクトだと言ってよい。単なる善意や思い付きで立ち上げたていどのベンチャーが出かけて行って、井戸の一つや二つを掘ったり幾つかの小学校を作ったところで、どうなるものでもない。

そして BOP の肝は、対象国の消費者が《豊かになりすぎないこと》こそがビジネスを継続するための言われざる秘訣であろう。持たざる者の欲求こそが消費の原動力となるわけであって、要するに BOP がマーケティングの新しいフロンティアと見做されているのは、先進国の消費者が現行の生活スタイルや生活水準に或るていどの満足を感じていて、予測不能なブームでもない限りは爆発的に石鹸やシャンプーが売れる状況ではなくなったからだ。それに対して、そもそも石鹸がない不衛生な状況の人々には、安物だろうとアロマの香りがついていなかろうと、石鹸のようなものがあればと潜在的な欲求があるというわけである。販路さえ開拓すれば、あとは彼らに購買力を持たせれば幾らでも売れる。そうしておいて、グローバルな商社には当該国で限られた産業だけを「比較優位」などというたわごとを使って発展させつつ、消費国の国内で BOP ビジネスの商品を自力で生産する産業が育たないていどに購買力をつけてやるという、いわば経済における《神》のごとき役割を演じるのが、BOP ビジネスを展開する企業の役どころなのである。

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