2018年11月07日に初出の投稿

Last modified: 2018-11-07

野党も「多文化の共生」などというきれいごとではなく、人手不足の根本にある労働市場のミスマッチを是正する改革を提案してはどうだろうか。その最大の障害になっているのは正社員の既得権を守る労働組合なので、この問題については野党が与党的な決定権をもっている。

外国人労働者を増やしても人手不足は解決できない

相変わらず若者へのリップサービスに余念がない典型的な口先リバタリアンの議論だが、確かに労働組合というものは再考の余地が大きい。

そもそも労働組合は団体交渉権を以て多数の従業員の労働条件を維持・向上させるために存在し、団体交渉権が権利として必要だったのは個人の交渉力が弱いからである。会社に空気清浄機を導入してくれと個人がそれぞれ総務に掛け合ったり稟議を出しても個別撃破されて終わりだが、団体として交渉すれば「多くの従業員のストライキ」という権利を交渉材料にできる。そこで全く会社が交渉しなければ、ストライキが発生した際の生産物の不足を補うために、人事部が数時間や数日でストに入っている従業員の代わりを補充することなど不可能だから、交渉に応じざるをえなくなる(但し、アウトソースで簡単に済むような仕事しかしていない従業員がストをすれば、場合によっては全員を解雇してしまえる)。

こういう議論の基本として、個人の交渉力が弱くて会社と交渉するのが難しいという前提がある。しかし、いまや色々な情報交換の方法や人事考課の基準などが整備されているわけで、こういう前提は考え直してみる必要がある。そして、多くの人々は会社側の方が「強い」から交渉が難しいと思っているわけだが、個人として交渉するのが難しい規模の会社など日本には数百社しかなく、日本の「企業」の 99.99% は人事の専門部署すらないような中小零細企業である。つまり、実際のところ、労働環境や待遇を個々に交渉することが難しいのは、殆ど全ての会社の人事部や人事担当者には個々の従業員の力量を判定する知識や経験や能力などまるでなく、それに加えて、財務会計の観点から販管費の割合や損益分岐点の設定が会社の経営にとって妥当かどうかを推論する経済学や会社法の知識も不足しているからである。たいていの企業の人事部というのは、日本企業の生産性が低いとされる原因を作ってきた「隠れ背任部署」なのだ。本来、「わたしはこれまで人を何百人と見てきた」などと豪語しているだけのジジイに人事を任せていてはいけないのである。

こうした状況を鑑みて改善しようという動きは、既に幾つかの企業で始まっていると聞く。人事考課の指標を合理化するなどというのは当然のことだが、それだけではなくプロフィット部署の業務を丁寧に調べたり体験しているというし、ちょうど IFRS への対応が始まったことに合わせて、自社の業務フローを XBML のようなモデルに準拠したビジネスプロセス・モデルとして捉え直して、逆にプロフィット部署へ業務改善を提案するといった実績が積み上がってきている。そして、人事という仕事は企業の根幹である人の採用や待遇に関わる非常に重大な責任を負った部門であり、もっと厳しく評価して、適正な仕事をしている人々を称賛するべきだし、経営陣は企業の中核的な部署として多くのリソースを割くべきだと思う。はっきり言って、営業部門の責任者と同じくらいの給料を出してもいいくらいだ。

というわけで、個人がまともな人事担当者と是々非々の交渉ができるようになれば、これはあくまでも未だ理想だと思うが、団体交渉権は特別な場合に必要とされるだけになるだろう。実際、アメリカでは巨大すぎる GM や Google のような企業を除いてユニオンに入る人などいない。誰もが会社の人事権を握っている上長と直に対話するし、人事部という特別の部署があろうとそこへ一人で交渉しに行く。自分の待遇について話をするのに、まさか日本人だけが「連れション」みたいに仲間を引き連れてゆかないと交渉すらできないなどという、小学生みたいなメンタリティを21世紀になっても引きずっているままなら、それはもう国家レベルの恥辱と考えるべきだろう。なるほど、人事に強面の人間を配置して対応するといったチンピラ経営者もいるだろうが、それはまた別の次元の問題として、今度は労働基準監督署の権限を強化しなくてはいけないという話になる。

ともあれ、労組という例外的な組織で飯を食うことしか能がない、昔から「労働貴族」などと言われているプロの活動家の存在を問うのはもちろんのことだが、労組があることに疑問をもたず、毎年のように数パーセントほど給料が上がるのが当たり前だと思っている人々も、そろそろ労組が自分たちのスキルや労働の値段を、逆に画一的に会社と交渉するという構図がおかしいことに気づくべきだろう。

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